職員「上海研修」問題 伊藤・鹿児島県知事「剛腕」県政に黄信号

職員「上海研修」問題 伊藤・鹿児島県知事「剛腕」県政に黄信号
産経新聞 2013年6月27日(木)23時22分配信

 鹿児島県が、鹿児島空港と上海を結ぶ定期路線存続を理由に県職員1千人の上海研修事業費として1億1800万円を補正予算案に計上した問題で、伊藤祐一郎知事は27日、予算案をいったん撤回し、派遣人数を300人に削減した新たな補正予算案を提案する方針を県議会(定数51)に伝えた。

 県議会最大会派の自民党県議団(35人)は同日、全員一致で修正方針を了承し、可決の見通しとなった。だが、派遣人数を減らしただけの修正案に、批判は収まりそうにない。

 上海研修には自民党内でも異論が多く、当初26日を予定していた委員会採決が見送りとなった。伊藤氏は同日夜、池畑憲一議長と会談した際に、撤回と修正を表明したという。

 池畑氏によると、路線存続の緊急措置として、県職員と県民の計300人を7〜9月の3カ月間派遣する。当初1億1800万円とした予算案は、3540万円に減額する。

 県はその後、上海路線の利用状況を見極め、9月議会で対応を検討する。伊藤氏は県庁で記者団に「事態を収めるために判断した。議論になることは分かっていた」と語った。

 上海研修問題で県は当初、7月〜来年3月に県職員と教職員の計1千人を50人ずつ、3泊4日の日程で上海に派遣する計画を発表した。批判が相次ぎ、うち300人を民間からの派遣とする内容に修正していた。

 「剛腕」でならした鹿児島県の伊藤祐一郎知事が、県職員1千人に3泊4日の“上海旅行”をプレゼントする補正予算をついに撤回した。とはいえ、代わりに派遣人数を300人に縮小した修正案を提示する構えを崩しておらず、県議会も可決する見通しだという。県民の多くは、中国東方航空の路線存続を名目に県職員に海外旅行をプレゼントする発想そのものに怒っているのであり、縮小しても怒りが消えるはずはない。一連の騒動で盤石にみえた伊藤県政に黄信号が灯ったことは間違いない。(谷田智恒)

 伊藤氏は東大法学部卒で総務省の元キャリア官僚。生活の党の小沢一郎代表が自治相だった際、秘書官を務め、小沢氏と太いパイプを持つことで知られる。

 このような経歴もあり、民主党政権下で各省庁にモノが言える知事として実績を重ね、昨年7月の知事選で圧勝し、盤石な体制を築いた。3期目に死角はないように思われていたが、イエスマンに囲まれて世間の空気が読めなくなったのか。今回の補正予算をめぐり見苦しい迷走を続けた。

 伊藤氏は7日の議案説明では一歩も引かない構えだったが、県職労や自民党県議団まで批判し始めると、12日には「300人は県民に参画を求める」といきなり計画を変更。14日には「職員給与削減分の一部を研修の形で還元するのは自然の流れ」と、実態が県職員の給与補填だったことをあっさり認めた。

 これが火に油をそそぐ結果を招き、19日には8017人の県民の反対署名が県と県議会に提出された。さらに伊藤氏は24日の県議会連合審査会を「公務出張」を理由に欠席。26日夜になって池畑憲一県会議長にいきなり補正予算案の白紙撤回と修正案を再提出する考えを告げた。

 だが、1千人を300人に減らして予算を3540万円に減額したところで理屈の通らないムダな出費であることに変わりはない。しかも「300人の県民参画」はどこに消えたのか。自らの答弁が弥縫策だったことを認めたに等しい。これでは鹿児島−上海路線の存続に向け、中国東方航空と「密約があった」と勘ぐられても仕方あるまい。

 それだけに県議会もそう簡単に修正案をのむわけにはいかない。

 県民連合の二牟礼正博県議は「議案の撤回は大変な出来事であり、知事の政治決断を評価したい。上海研修は路線維持の緊急措置としてやむを得ない」と伊藤氏の方針転換に賛意を示したが、さすがにこれは少数派。公明党は「派遣人数を300人に縮小すると言っても県費丸抱えには同意できず、反対せざるを得ない」(成尾信春県議)となお反対姿勢を崩さず、共産党も反対する方針だ。

 成否のカギを握るのは、51議席中35人を擁する自民党だが、どうにも煮えきらない。池畑氏は「知事には議会の判断を重く受け止めてもらった。(県議団内で)私としては何とか一定の理解を得られた感触がした」と述べ、修正案を受け入れる考えを表明。一方、伊藤氏に白紙撤回を申し入れた永田憲太郎県議は「われわれは県民の代弁者であり、知事のサポーターではない」となお納得していない様子だ。

 修正案は28日の本会議に提案される。参院選を目前に控え、県議会はまさに見識を問われている。

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