いじめ問題は「大人の勘違い」だらけ 自死遺族が著書で訴え

いじめ問題は「大人の勘違い」だらけ 自死遺族が著書で訴え
産経新聞 2013年10月14日(月)15時30分配信

 「大好きな親には何でも相談する」「傍観者も加害者」は誤りです−。いじめ自殺で一人娘を失った経験を持ち、「いじめのない教室をつくろう」(WAVE出版)を出版した横浜市の小森美登里さん(56)は、こう訴えている。小森さんは10年以上、800回超に上るいじめ防止の講演活動を通じ、600校の先生と23万人の子供たちと接してきた。著書は、その経験の中で得たいじめ問題の“処方箋”だ。9月に「いじめ防止対策推進法」が施行されるなど国を挙げた対策が進められているが、小森さんは「大人がいじめ問題で勘違いしている点が多すぎる」と訴えている。

 小森さんは平成10年7月、高校1年だった長女、香澄さん=当時(15)=を自殺で失った。香澄さんは同級生から言葉や態度によるいじめを受けていた。学校には10回以上足を運び、メンタルクリニックにも通わせていた。

 ある夜、小森さんは引きこもっていた香澄さんを散歩に連れ出した。小森さんは、香澄さんを励まそうと、わざと加害者の女子生徒のことを口汚くののしった。

 ところが、香澄さんは同調するどころか、冷静に「お母さん、優しい心が一番大切だよ。その心を持っていない、あの子たちがかわいそうなんだよ」とつぶやいた。香澄さんが自宅で首をつったのは、その4日後。亡くなった日は、父親の誕生日だった。

 小森さんは15年、愛娘の言葉「優しい心」にちなんで、いじめ防止に取り組むNPO法人「ジェントルハートプロジェクト」を立ち上げ、10年以上、活動を続けてきた。これまでに全国の小中学校などで行った講演は800回を優に超える。23万人に上る児童・生徒や、現場の教師たちと接する中で、感じたことをつづったのが今回の著書だ。

 小森さんは「いじめ問題への対処法について、『大人が正しいと思っていたことが、実は子供たちにとってはそうではなかった』と気づいたとき、子供の視点からのメッセージを現場の先生に届けたいと思った」と執筆の動機を語る。

 著書ではまず「いじめって、そうじゃないんです」と題し、大人が勘違いしているケースを列挙した。

 いじめ被害の相談について、ある女子高生は、仲が良く大好きだった両親に話せなかった理由を「自分が一番安心できるところはそのまま残しておきたかった。家庭に持ち込みたくなかった」と打ち明けたといい、「親子関係が良いからこそ言えない場合もある」と記した。

 いじめ問題でしばしば「いじめられる側にも原因がある」と言われることについて、ある小学校低学年の男児が先生から「あなたにも何か原因があるんじゃないの」と言われ、不登校になった事例を紹介。「何か理由があれば、人を傷つけていいのでしょうか」と問いかけた。

 「そんなことをされたら自分だって嫌だろう」。大人はよくこの言葉を使って加害者を叱るが、「子供たちはこの言葉にうんざりしている」と書き、「加害者は相手が嫌がるからこそやっている。加害者として存在し続けることで、被害者になる不安を払拭する」と加害者心理を分析する。

 「加害行為は自然とエスカレートしていくもので、怖いのは快感になっている子供がいること」と懸念する小森さん。「いじめは加害者の心の問題」と強調した上で、「加害者の心に寄り添い、その行為をやめさせ、反省して正しく生き直すサポートが解決方法ではないか」と指摘する。

 大津市の中2男子自殺を機に9月28日に施行された「いじめ防止対策推進法」では、加害者への懲戒や出席停止措置、警察との連携強化などが盛り込まれたが、小森さんは「厳罰化」の流れに危機感を示す。

 「見て見ぬふりをする傍観者も加害者だ」と言われることについても、「いじめられている子を助けるような行為は、子供社会では『次のいじめのターゲットは自分。覚悟はできている』という被害者への立候補に等しい」と指摘。小森さんは「傍観したくて傍観しているわけではなく、友達を守れない子供たちも、辛い気持ちで過ごしている。大人社会でも難しいことを、子供に求めるのは問題外」と話す。

 小森さんは「いじめは被害者だけでなく、加害者や傍観者も被害者だという視点で取り組まないと、いじめの根本的解決にはつながらない」と強調する。

 「何回言ったら分かるんだ!」。加害者の子供を叱るとき、この言葉を発する先生も少なくない。しかし、小森さんは「子供は何回言われても分からないもの」と指摘。その上で、こう訴える。

 「子供たちは、大人と一緒に考え、一緒に答えを探して、見つかった答えを体現することしかできないのに、大人は『言えば伝わる』『怒れば伝わる』と思っている。一緒に考えることを忘れている大人に、子供たちと一緒に考え直してほしいと思う」

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