「僕みたいなやつ、ずっとあんたら無視して生きてきたでしょ? 社会から追いやられて、こぼれ落ちた、かわいそうな人間を」 『東京サラダボウル』(NHK総合)最終回における“ボランティア”こと、シウ(絃瀬聡一)の台詞は、この国に生きる私たち一人ひとりに向けられたものだ。 出入国在留管理庁によると、日本における外国人居住者の数はおよそ358万人(2024年6月末時点)(※)。だが、そこに何らかの事情で在留資格を持たない推定7万人は含まれていない。紛争や人権侵害などの理由で母国から日本に逃れてきたものの、厳格な難民認定審査を突破できなかった人、劣悪な職場から失踪した人、在留資格のない親の元に生まれた子どもなど、非正規滞在となるケースは様々。正規に日本で暮らしていても、差別や偏見にさらされ、肩身の狭い思いをしたり、生きるために犯罪に手を染めてしまったりする人もいる。 国際捜査係の警察官・鴻田(奈緒)と中国語通訳人の有木野(松田龍平)、通称“こぼれカスヒーローズ”は、そうした人々を掬い上げてきた。でも、日本社会からこぼれ落ちてしまうのは外国人だけではない。人種や国籍、年齢、性別、性的指向など、特定の属性に限らず、孤独や生きづらさを抱えながら、生きている人たちが大勢いる。顔と名前以外、何も情報がないシウは、その象徴なのかもしれない。しかし、彼は自分と同じように社会からこぼれ落ちてきた人間を助けるでも、苦しみを分かち合うでもなく、食い物にしてきた。 そんなシウが阿川警部補(三上博史)の情報提供により逮捕される。阿川は4年前、誤訳事件を起こした張本人として世間を騒がせた自身の現場復帰を「神様がくれた最後のチャンス」と語っていたが、それを彼は贖罪に使ったのだ。 阿川の罪は2つある。1つは、シウから捜査に必要な情報を得る代わりに、47人もの非正規滞在者を引き渡したこと。その47人は無償で母国に帰してやるという甘い言葉に騙され、人身売買組織に売られたり、戸籍売買を手伝わされたりしたのだろう。危険を察知し、警察に駆け込もうとしようものなら殺される。以前、鴻田が「不法滞在者じゃない。その人たちも、一人ひとりの人間です」と言っていたが、彼らにも母国に帰りを待っている家族や友人がいたはず。阿川はそのことを敢えて見ないようにし、日本の治安を守るという大義名分で彼らを“処刑台”に送ったのである。 もう1つの罪は、相棒だった織田(中村蒼)を死に追いやったこと。織田が自ら命を絶ったのは、有木野を守るためだった。信頼を置く監察官・豊角(三浦誠己)の依頼で阿川の内偵に協力していた織田。録画された取り調べ映像をもとに有木野が検証した結果、阿川が意図的に誤訳をしていたことが分かり、それによって人生を奪われた依頼人の無実を証明しようとする伊村弁護士(安藤玉恵)に織田は報告書を渡したことで不正が明るみに出た。 そのこと自体は阿川にとってさして問題ではなかったのだろう。それよりも彼が恐れていたのはシウとの繋がりに気づかれてしまうこと。阿川は風営法違反の件で取り調べていたリンモンチ(李丹)から、シウとの関係をバラされたくなければ、自分を釈放するように脅迫されていた。そして、その時の映像を表に出せば、有木野との関係を暴露すると阿川もまた織田を脅したのだ。 もしそれで警察に居づらくなっても、織田はいざとなれば自分が辞める覚悟を持っていたに違いない。でも、有木野は違う。おそらくマイノリティとしての生きづらさを抱えて過ごしてきたであろう有木野にとっては、警察という組織でマジョリティに紛れていることがひとつの安心材料になっていたのではないだろうか。そのことを織田も分かっていたから、有木野の居場所を守るため、自分の存在とともに、あの取り調べ映像を埋めたのだろう。