【法廷から】児童が「剣持って走ってきた」と泣きじゃくりながら 京都塾女子児童殺害の被告、再精神鑑定へ

【法廷から】児童が「剣持って走ってきた」と泣きじゃくりながら 京都塾女子児童殺害の被告、再精神鑑定へ
2008.6.1 18:17 産経新聞

 京都府宇治市の学習塾で平成17年12月、小学6年の堀本紗也乃さん=当時(12)=が刺殺された事件で、殺人などの罪に問われ、昨年3月に1審・京都地裁で懲役18年(求刑・無期懲役)の実刑判決を受けた元塾アルバイト講師、萩野裕被告(25)の控訴審公判が、大阪高裁で続いている。

 公判の争点は1審に続き、萩野被告の刑事責任能力の有無。高裁は1審に続き、再び精神鑑定を行うことを決めた。鑑定は8月末ごろまで約3カ月かけて行われ、鑑定書は9月上旬に提出される見通し。

 法廷では視線の先が不自然に泳ぎ、人目もはばからず泣き続けるなど異常なふるまいが目立つ萩野被告。果たして鑑定の行方は…。

   × × ×

 今年2月19日。午後の大阪高裁の法廷に、ぼろぼろと大粒の涙を流し続ける萩野被告の姿があった。

 この日の第3回公判で行われたのは、紗也乃さんの両親による意見陳述。

 被告から姿が見えないように母(44)が衝立越しに話す。

 「毎週、事件が起きた土曜日になると、この時間に(娘が)怖い思いをしたんだなと想像してとても怖いです」

 「今でも怖くて1人で外出できません。傷は癒えていないのに、人に会って声を掛けられたときに『傷は癒えていません』と言うこともできず…」

 「被告の言うことは嘘ばかりで納得できない」

 母の言葉は重い。静まり返った法廷で突然、萩野被告のむせび泣きの声が響いた。

 「うう、うう、ううう…」

 弁護人席の前に腰掛けた坊主頭の萩野被告は顔を紅潮させ、頬をふるわせながら泣き続ける。

 顔中を涙まみれにした泣き方は尋常でなく、少なくとも20歳を超えた大人の男の泣き方には見えない。

   × × ×

 萩野被告が公判で泣くのはこれが初めてではない。

 京都地裁での1審公判段階や、被告人質問が開かれた昨年12月の控訴審第2回公判などで、何度となく泣いている。

 入廷の際は、常にきょろきょろと視線が落ち着きなく泳ぐ。

 被告人席に向かう途中で傍聴席の遺族に視線を向け、一瞬動きが固まることもある。

 今年2月の公判の際は、手をかきむしった痕なのか、両手が緑がかったくすんだ色に変色し、傍聴人の目を引いた。

 常に落ち着きがなく、1審段階では、何度となく審理中に傍聴席を振り向き、びくびくと何かに怯えた様子も見せていた。

 明らかに、挙動がおかしい。

 遺族から「嘘つき」と言われているのも、犯行に至る経緯や動機に関する本人の供述が、突拍子もない内容に聞こえるからだ。

 象徴的なのは、目の前で実際に起こっている「客観的事実」と、実際には起こっていないが映像のようなものが見える「主観的事実」とが、萩野被告の中で混在しているらしいことだ。

 常に何かに襲われたり殺されそうになったりする恐怖感に襲われているのが特徴的で、犯行の約3カ月前からは特にひどくなっていたと本人はいう。

 自宅や外出先で突然大声をあげたり、電車内の連結部分にしゃがんで隠れたり、大学の授業中に突然教室から走って出たまま戻らなかったり…。

 奇行が続いていた。

 萩野被告は平成15年の上旬、在学していた京都市内の私立大学構内で財布などの盗みを繰り返し、目撃者に暴行する事件を起こして逮捕、起訴された。

 保釈中に自ら通院した精神科クリニックで広汎性発達障害の一種の「アスペルガー障害」と診断された。

 アスペルガー障害とは一般的には、特定の物事に固執し、対人関係を築くことが困難とされる症状だ。

 ただ、この障害は犯罪傾向には直接結びつかないとされている。

 今回の事件が起きた塾では15年11月に講師になっていたが、17年5月、補講で紗也乃さんを夜遅くまで残したことから、保護者から抗議を受けていた。

 萩野被告はその年の9月ごろから、紗也乃さんから「きもい」と言われているように感じ、医師には「命を狙っている人が増えてきた」と相談していた。

 11月には問題集の解答の提出がないことを直接叱ったため、保護者から「今後は被告の授業を受けさせない」と伝えられた。

 萩野被告は剣を持った紗也乃さんが襲ってくるような幻覚が見えるようになり、犯行直前までの間、紙に紗也乃さんの名前や「塾やめろ」などの言葉を書いて、コンパスの針で何度も紙を刺したり破ったりしていたという。

 昨年12月の高裁での被告人質問で萩野被告はこう供述した。

 「堀本さん(被害者)を嫌いだったり、ストレスだったのは事実です。心の声を送ってきたりしたので、本物の彼女から逃れたいと思って、入院したら逃れられると思いました」(実際には入院できなかった)

 「堀本さんに待ち伏せされたことが何度もあった。剣を持ってダッシュして走ってきた。刺されましたが、そのときは本物の堀本さんじゃなかったので死ななかった…」(泣きながら)

 「心の声とか、剣を持ってたりするから、本物の堀本さんを刺したら、自分が殺されなくて済むと思いました」

 結局、萩野被告は17年12月10日午前9時ごろ、学習塾で紗也乃さんの首などを出刃包丁で数回突き刺すなどし、殺害した。

   × × ×

 1審判決は、萩野被告の完全責任能力を認めた。

 「先天的なアスペルガー障害に罹患し、ストレス耐性の弱さなどの特性のある被告は精神病のような状態にあった」と認定したものの、塾講師を特段問題なくこなし、監視カメラのコンセントを抜くなど犯行前の計画性を重視したためだ。

 ただ、量刑ではアスペルガー障害の影響を考慮して、無期懲役の求刑に対して懲役18年に減じた。

 検察側は「遺族感情に照らして刑が軽すぎる。無期懲役が相当だ」、弁護側は「被告は犯行当時、重篤な精神病のような状態で、物事の善悪を弁別する能力が著しく減退した心神耗弱状態だった。1審判決は責任能力の判断を誤った」として、双方が1審判決の破棄を求めて控訴。弁護側が1審に続いて精神鑑定を請求し、今年2月の公判で認められた。

 5月29日の第4回公判では、鑑定人に決まっていた女医が出廷。

 裁判長は萩野被告に「こちらの先生が鑑定をしてくれます。自分の姿を嘘偽りなくみてもらうことに協力してもらいます。できますね」と語りかけた。

 萩野被告は「はい」とだけ、短く答えた。(杉村和将)

シェアする

フォローする