「原発は腫れ物でなく宝物」 新潟県の大名誉教授が説く原発活用論
2009年6月7日14時33分配信 産経新聞
「怖い」「不安」…。何かと後ろ向きなイメージを持たれがちな原子力発電所だが、そこには日本の先端科学技術の粋が集められている。その原発を「地域の宝物」として活用していこうという動きが、世界最大の原発が立地する新潟県で始まっている。「新潟県原子力活用協議会」(会長・橋本哲夫新潟大名誉教授)は昨年11月、県内企業97社が参加して設立され、6月2日には十日町市で、原発活用セミナー「原発を生かして地域経済の発展を!」を開いた。
新潟県柏崎市と刈羽村にまたがる日本海沿岸に原子炉7基が立地する東京電力柏崎刈羽原発は、平成19年7月の中越沖地震で被災し全号機が停止したが、今年5月、1年10カ月ぶりに7号機が試運転を始めたばかりだ。
福井県出身で、放射線・原子力が専門の橋本会長は「新潟県は腫れ物、福井県は宝物」と題し、福井県と新潟県の原発に対する姿勢の違いを説いている。講演要旨は次の通り。
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新潟県と福井県は、いずれも日本海側に面する原発立地県なのに、非常に差がある。福井県は西川一誠知事からして原発を産業や人材の育成、教育に使おうとする態度が見られる。西川知事は原発関連の事故があったとき最初に乗り込んで、現状の説明を受けて自分で確認し、県民に対して安全だと宣言している。中越沖地震後に「廃炉もあり得る」と発言した(新潟の)泉田裕彦知事とは大きな差がある。
ここまで7号機の運転再開が遅れたのは、われわれが選んだ知事、または行政がうまく機能していないのではないか。原子力を活用するという態度がないのではないか。この状態で原子力を腫れ物にしていくと、新潟県は遅れていく。
原子力学会に入っている研究者を数えてみると、新潟県は福井県の20分の1しかいない。それも現実にはその仕事には携わっていない研究者もいて、全く原子力の専門家はいないに等しい。
福井県は事故が起こるたびに県の命令や施策で、研究機関を誘致して専門家を置き、住民に安心感を与えている。美浜町が関西電力に要請して、放射線を当てて滅菌したり、物質に多機能を持たせる電子線照射施設が今年度末に出来上がる。最初に事故があったときに福井県が科学技術庁(当時)に要請して造らせたのが若狭湾エネルギー研究センター。ここで小中高への出前出張講義をすべてつかさどっている。福井工業大には原子力技術応用工学科があり、福井大大学院には原子力・エネルギー安全工学の専攻を設けている。もっと驚くべきことに、福井大は関西や東京の大学と連携して今年度から大学院に、国際原子力工学研究所を設けている。
一方の新潟県は、これまでの知事や市長が積極的に取り組まなかったので、研究機関は何もない。こういう状態をどうすればいいのか。どこからか動き出さなければならない。この原子力活用協議会は一つの動きだ。みなさんと一緒に新潟県の原子力を産業や人材の育成に活用していこう。