知的障害があり、性的行為に対する同意や抵抗が困難な女性に対してわいせつな行為をしたとして、埼玉県内の障害者施設で勤務していた職員が不同意わいせつ容疑で逮捕された。法務省の法務総合研究所が3月に公表した特別調査の報告書によると、知的障害者などが被害に遭った性犯罪では、加害者の3割以上が「支援関係者」だった。報告書は、支援者であっても障害者と1対1にならないようにすることなど、対策を求めている。 調査は、2018年からの5年間で有罪判決が言い渡された精神障害がある性犯罪被害者176人(知的障害74・4%、発達障害19・9%)の判決を分析。22年に判決が出た障害がない被害者349人と比較した。 障害者が被害者のケースでは、加害者は支援関係者が33%と最多で、面識なし29・5%、知人21%――と続いた。障害がない人の場合は「面識なし」が最も多く、16歳未満で40・2%、16歳以上だと70・3%に上った。 また、障害がない16歳以上の人は、97・8%が事件発生時に被害を認識していたのに対し、障害者の場合は、違和感や不快感があったものの犯罪行為とまでは認識していない「認識不十分」と、行為や意味を理解していない「認識なし」の合計が6割を超えた。捜査機関への発覚までに1カ月以上を要したケースは、障害がない16歳以上は8・2%だったが、障害者は32・4%だった。 ◇事件発覚が遅くなる傾向に 報告書は、障害者の場合は周囲が被害に気付いてから警察に相談するケースが多く、事件発覚が遅くなる傾向があると指摘。被害防止策として、支援関係者を含めて障害者と異性が1対1となる状況を作らないことや、施設内の死角を減らすこと、防犯カメラや送迎車のドライブレコーダーを活用することなどを求めている。 調査にも関わった帝京平成大の大塚淳子教授は「調査は有罪判例を対象としており、障害者の事情聴取が困難などの理由で起訴できなかったものなど、より多くの被害が潜んでいる可能性がある。施設利用者の場合は移籍する施設が見つからないなどの理由から、本人や周囲が被害申告を避けるケースもある」と指摘。「閉鎖性の高い施設の設備など物理的環境や意識の改善だけでなく、障害者に対する性教育や、福祉業界と捜査・司法機関の連携強化による早期の事件対応といった幅広い対策が必要だ」と述べた。【田原拓郎】