「好みのタイプ」を尾行、襲撃 神戸女性刺殺事件の衝撃なお 若い女性「人ごとじゃない」

「好みのタイプだった」。神戸市のマンションで8月に起きた刺殺事件で、兵庫県警に殺人容疑で逮捕された男(36)は被害女性について、こう供述したとされる。面識のない相手に尾行されて襲われる-。異様な事件から1カ月半がたっても、市民には不安や戸惑いが続いている。県警は不安を感じたらすぐ相談するよう呼びかけ、専門家は女性の自由な行動を制限するような議論にならないよう注意を促す。(村上貴浩、浮田志保、那谷享平) ■予測できない恐ろしさ 事件は8月20日午後7時20分ごろに起きた。マンション内で住人の女性会社員(24)が上半身を複数回刺されて亡くなった。県警は、逮捕された男が路上で女性を見つけ、勤務先から尾行した上、オートロックのドアが閉まる前にすり抜けてマンションに侵入し、エレベーター内で襲ったとみて調べている。 こうした経緯が報じられると、危険が予測できない恐ろしさから、若い女性を中心に波紋が広がる。 神戸・元町で勤める女性会社員(27)は事件後、防犯カメラがあるかを確認して通る道を決めている。同僚の女性とそんな話をするようになった。「後ろを男性が歩いていても分かるよう、音楽を聴いたり、スマートフォンを操作したりしない。あえて早く歩いている知人もいる」と明かす。 「痴漢被害や知らない人からの声かけは何度も経験している」。そう話す女性会社員(36)は、9月上旬の日中にも、街頭で知らない若い男性に突然「かわいいね」と声をかけられた。事件後、職場で護身用グッズが話題になり、夜のジョギングコースを人通りの多い道に変えた。「事件は人ごとじゃない」 男性側も戸惑う。神戸市内で働く男性会社員(47)は、これまでエレベーターで女性と一緒に乗らないようにしてきた。たまたま女性と2人になった時は、降りる際に先を譲っていたが「あえて自分から先に降りるようになった」と話す。 飲食店従業員の男性(28)もエレベーターで気を配るようになったが、「一緒に乗っただけで怖がられるとは思ってなかった」と驚く。あえて階段を使うという男性もいると聞いたが、「正直どこまで気をつければいいのか」と困惑する。 ◇ 警察庁などによると、2024年に全国のストーカー関連事案は計1万9567件。被害者と加害者の関係では「交際相手(元を含む)」の約37%が最多だが、全く無関係な「面識なし」も約9%あった。 兵庫県内でも、前年比148件増の986件の事案があり「面識なし・不明」は195件で全体の約20%に上った。被害者は全体の約88%を女性が占めており、男女に偏りがある。 女性に対する暴力の問題に詳しい広島大ハラスメント相談室の北仲千里准教授は「街頭での日常の経験にはジェンダーで差があり、つきまといなどの恐怖感は男性よりも女性の方がリアル」と指摘。今回のように見知らぬ相手から殺害されるケースはまれとした上で、「『女性が気を付けるべきだ』『外を歩くのを控えたら』と自由を制限する方向に議論が向かないようにしないといけない」と話す。 ■兵庫県警「不安あれば相談を」 兵庫県警はつきまといや待ち伏せへの自己防衛策をストーカー対策の一環でホームページに載せている。 人通りが多く、明るい道を選び、つきまといに気付いた場合は、近くの店舗に逃げ込み、110番するなど、臨機応変に対応するよう勧める。 県警人身安全対策課によると、110番や最寄りの警察署のほか、県警の「ストーカー・DV相談電話」(078・371・7830)もある。「少しでも不安があれば警察に相談を」と呼びかけている。

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