権力の奥で生起する不正、腐敗の数々を暴いてきた「闘うジャーナリスト」青木理氏。いま改めて、それらの「忘れてはならないこと」を構造的に捉え直し、ジャーナリズムと私たち一人ひとりの意識を喚起する。 ◇鹿児島県警内部告発事件、大川原化工機事件、袴田事件の深奥にある「腐蝕」 鹿児島県警で主要署の署長や生活安全部長を歴任した男―本田尚志が突如逮捕されたのは昨年5月のことである。県警本部の部長職まで上り詰めた元最高幹部が、当の県警に逮捕されるなど異例中の異例だったから、メディアも一時はそれなりに騒然とした。 結果、県警は警察庁の特別監察を受け、トップの本部長は事実上の更迭に追い込まれた。だが、〝身内〟の監察で深層にメスが入るはずもなく、問題の核心は今なお放置され、何ひとつ解決していない。 本田は職務上の秘密を漏洩(ろうえい)した国家公務員法違反の容疑がかけられた。しかし、その「漏洩」相手はフリーのジャーナリストであり、「秘密」とは未公表の警官不祥事や県警の組織的不正が疑われる事案だった。ならばこれは「秘密漏洩」ではなく「内部告発」であり、メディアやジャーナリズムの立場から本田はその「告発者」「情報提供者」であり、広く社会にとっても「公益通報者」ではなかったか。 しかも県警は、警察が警察であるがゆえに持つ公権力を駆使し、本田の存在を割り出していた。このジャーナリストが寄稿するメディア―福岡に本拠を置き、たった1人で運営されるネットメディアを別件で家宅捜索し、取材メモやPCなどを押収し、その解析から本田の告発を掴(つか)んでいたのである。つまりは逮捕もあからさまな〝口封じ〟に等しい。 このような所業を許せば、およそメディアとかジャーナリズムという営為の根幹は息絶える。同じことを新聞やテレビ、大手出版社を相手に行えば、これは取材・報道の自由や取材源の秘匿を真っ向から侵すものだと大騒ぎになるだろうし、ならなければおかしい。なのにメディア報道もすっかり沈静化し、もはや忘れ去られてしまったかのようである。問題の核心は何ら解決していないのに。