11月26日、大阪市北区太融寺町のホテル街で、売春を目的として客待ち行為をした24~37歳の女3人が売春防止法違反の容疑で逮捕された。 売春問題は新宿の大久保公園だけではない。大阪でも「立ちんぼ」が客待ちをしているエリアがあり、売春が行われている。その一つが大阪市北区の兎我野町エリアだ。梅田駅から徒歩数分の路地の一角、通称「アメリカン通り」とも呼ばれる路地では、恒常的に「立ちんぼ」たちが客待ちをしていた。今回、女たちが逮捕されたのもこの「兎我野町」と呼ばれるエリアだ。 しかし、このアメリカン通りの「立ちんぼ」たちは、ここのところ大幅に減少していたという。大阪の「立ちんぼ」たちの間で何が起きているのかを探った。 「アメリカン通り」では昨年12月、売春目的で客待ちをする女性たちへの対策として、道路を黄色く塗って明るくする防犯対策が行われた。黄色に塗られた市道100メートルの範囲は「イエローロード」とも呼ばれ、行動経済学に基づいて、路上に留まりづらくなる効果があるという。実際に「立ちんぼ」が3ヵ月で9割減少したとの発表もあり、効果はあったようだ。 しかしその後、5、6月ごろから「立ちんぼ」女性は再び増加。7月29日には19~23歳の女性5人が売春防止法違反で逮捕され、イエローロードが完成してから初の一斉摘発となった。 筆者は’24年1月ごろにもこの場所を訪れている。そのときには10~15人の女性が路上に座りこんで客待ちをしている姿があり、男性客が見物をしていた。しかし、11月に訪れてみると、「立ちんぼ」と思われる女性を見かけることはなかった。 梅田近辺で働いている男性に「立ちんぼ」について話を聞くと、イエローロードが完成してからは「かなり減った」ものの、治安は悪いままだと話す。 「職場の近くなので、毎日このあたりを通ります。確かに全盛期と比べて『立ちんぼ』は減って、たまに1人2人、見かける程度です。以前は日が暮れると等間隔に女性が並んでいて、それを眺める男たちが徘徊するといった異様な風景でした。イエローロードができてからは、『立ちんぼ』は減少しましたが、今でも買春男性がうろうろとしているので普通の人は寄り付きません」 イエローロード周辺はラブホテルなどが立ち並び、ガールズバーやキャバクラ、チャイナエステといった店が数多くある。風俗店が目的でない人にとっては、やはり近寄りがたいエリアだという。 ◆インバウンド向け風俗店へ移動した女性 かつてイエローロード周辺で客待ちをしていたという女性にも話を聞くことができた。この女性によると、「立ちんぼ」は「リスクが高く割に合っていない」とのことで、現在はそれとは別の働き口を見つけたようだ。 「6月に風営法が改正されて大阪でも騒ぎになりました。売春は稼げますが、普通に風俗店で働いたほうがいいかなと思って……。今、大阪はインバウンドで盛り上がっているので、外国人をターゲットにした風俗店があるんです」 インバウンドをターゲットにした風俗は、繁華街であれば数多くある。また、今まで外国人客を断っていた風俗店であっても昨今はどんどん受け入れるように変わってきている。 「外国人向けの風俗は、日本人向けのデリヘルに比べて単価がもともと高く設定されていて、当たり前のように行われている本番行為でさらに上乗せされる場合もあるので、取り分は多いです。また、外国人は多少金額を吹っ掛けても払ってくれます。 『立ちんぼ』の相場は2万円前後ですが、インバウンド風俗は本番行為を入れて3万円ほど。待機場所もあるし、店が客を付けてくれるうえ、オプションや本番交渉を含めるとかなり高額が稼げる。一度の出勤で10万円以上稼げたこともあります。店の取り分がプレイ料金折半だとしても『立ちんぼ』並みに稼げますし、店の人がいるので安心して働けます」(前出の女性) この女性に話を聞いたのは9月ごろだが、彼女が働いていたというデリバリーヘルス『S』は、その後摘発され、中国人相手に日本人女性に売春をさせた売春防止法違反で経営者が逮捕されている。 ◆「梅田まで行くのはなあ……」 また、グリ下キッズと呼ばれる道頓堀周辺に集う若者の集団の中にも、かつて兎我野町で売春をしていたという女性がいた。彼女の話では、梅田周辺には遊ぶ場所がなくて不便だという。 「このあたり(道頓堀周辺)であれば、気が向いたらホストもメンコン(メンズコンカフェ)もある心斎橋にすぐに行けます。でも、梅田まで行くと遊べる場所が少ないので『梅田まで行くのはなあ……』って思いますし、大阪の自称イケメンってブスなんで、男に金を使うのは馬鹿らしいんですよね。だから頑張って立ちんぼをする必要もない」 歌舞伎町であれば、大久保公園とホスト街は目と鼻の先にある。しかし梅田で売春をしても、若者が集う心斎橋周辺ですぐに遊ぶことができない。物理的な距離は4kmほどだが、出稼ぎ感覚になってしまうようだ。防犯対策で稼ぎにくくなったこともあって、足が遠のいたのだろう。 新宿区・歌舞伎町ではいまだに多くの「立ちんぼ」が売春を続けており、逮捕や補導が後を絶たない。一方、大阪・梅田の「立ちんぼ」は見かけの上では、防犯対策が功を奏して、その数は激減した。しかし、なかには違法な風俗店といった非合法な組織に移動しただけ、という例もあったし、26日には逮捕者も出た。根本的な解決にはまだ遠いようだ。 取材・文・写真:白紙緑