アングル:ファッション業界に巣食う中国犯罪組織が抗争か、イタリアで裁判難航

Silvia Ognibene Emilio Parodi [プラート(イタリア) 11日 ロイター] – 欧州ファッション業界の物流を支配する中国人犯罪組織を巡るイタリアの裁判が、書類の紛失や通訳者の辞任など数々の不手際により難航している。検察は、業界支配を守るために妨害行為が行われている可能性を疑っている。 「チャイナ・トラック」と呼ばれるこの裁判は、2010年に中国人男性2人が刃物で殺害された事件をきっかけに始まった。イタリア・トスカーナ州のプラートを拠点に、数十億ユーロ規模に上る欧州衣料産業の物流を支配しているとされる違法ネットワークの解体が目的だ。 ところが裁判では、イタリアの司法制度が国際的な組織犯罪に対処する際の壁が浮き彫りになった。国内マフィアとの闘いに有効だった手段が通用しないのだ。 ロイターは、イタリアの幹部マフィア捜査官2人に加え、繊維労働者、労働組合代表、弁護士ら計6人以上に取材した。 長年マフィア対策を手がけ、現在はプラートの主任検察官として中国人犯罪組織の訴追を主導するルカ・テスカローリ氏は「中国コミュニティや中国当局による干渉の疑いがある」と語った。 同氏の発言について、ローマの中国大使館はコメント要請に応じなかった。中国外務省は声明で「原則として、中国政府は一貫して海外在住の中国人に現地の法律と規則を遵守するよう求めている」と説明した。 裁判を巡っては9月、通訳者が審理の際に出廷せず、中国に帰国していたことが分かった。彼女が作成した記録は「理解不能で使いものにならなかった」とテスカローリ氏は言う。通訳者が姿を消す事例は2度目で、トスカーナ州内で新たな中国語通訳者は見つかっていない。検察は、何者かが裁判を潰そうとしている可能性があるとして捜査を開始した。 裁判が停滞する一方で、暴力事件は増えている。ハンガーの製造やファストファッション輸送の支配を巡る争いから、イタリア、フランス、スペインでは爆破や放火事件が多発。ロイターの集計によると、2024年4月以降、少なくとも16件の攻撃があった。 <暴力の発火点> プラートの検察は判事に対し、中国人犯罪組織を法的に「マフィア」と認定し、資産差押えや厳罰を可能にするよう求めている。しかしこの認定は難しく、国外を本拠地とする犯罪組織を対象地した認定はなおさら困難だ。 フィレンツェの北西にある丘の街、プラートは欧州最大の繊維生産拠点で、7000以上の企業が年間約23億ユーロ(約26億8000万ドル)の輸出を行っている。地元当局によると、そのうち4400社以上が中国系企業だ。 街には中国系の工場や倉庫が軒を連ね、プラートは世界的なファストファッション生産拠点に変貌すると同時に、犯罪ネットワークによる暴力の発火点と化した。 「チャイナ・トラック事件」は2018年に捜査が終了し、検察は容疑者58人が「国外からの支援を受け、非常に強力な資金源を持つ犯罪組織」を形成していたと主張した。しかし7年経った今も証人尋問は始まっていない。主犯とされる中国人男性は2018年に予審拘留から釈放された後、中国に逃亡した。 <縄張り争い> 当時のプラート警察トップがロイターに語ったところでは、事件は浙江省出身と福建省出身の中国人グループ間の、欧州での縄張り争いから始まった。暴力は過去2年間でさらに激化している。 2024年7月、プラート在住の中国人実業家が、元兵士を含む6人組の男らに複数回刺された。検察当局が出した声明によると、男らは「ハンガー業界における独占的グループの事業利益を、暴力を通じて守る」ために中国からやって来たたという。6人全員が殺人未遂容疑で逮捕され、禁錮7年6月の判決を受けた。 今年4月には、「チャイナ・トラック」事件でも起訴されていた男性が、交際相手の女性とともにローマで射殺された。これまでのところ逮捕者は出ていない。 テスカローリ氏によると、中国系新興企業が1本当たり約0.27ユーロだった従来の市場価格に対し、約0.06ユーロでハンガーを販売し、既存業者を出し抜こうとしているという。 「取扱量が膨大なため、1本当たりの利幅がわずかでも巨額の利益が保証される」と同氏は述べた。 中国系企業は長年、腐敗と不正にまみれた、検察が「プラート・システム」と呼ぶ枠組みの中で操業しており、労働・安全面の違反行為や税関詐欺が横行している。企業は一夜にして設立されては姿を消す有様で、当局とのいたちごっこが続く。 マフィア認定、あるいは中国側の協力も期待できない状況で、チャイナ・トラック裁判が進むかどうかはイタリアの裁判手続きと、通訳者の確保にかかっている。次回公判は来年5月15日に予定されている。

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