【コラム】「力の時代」に直面した金正恩、計算が複雑に(2)

◆指導者交代と北朝鮮の反発 北朝鮮はベネズエラ事態に敏感に反応している。マドゥロが逮捕された翌日の4日、朝鮮中央通信は米国が「ベネズエラの自主権を乱暴に蹂躪する主権侵害行為を敢行した」と非難した。5日には金委員長が自ら「核戦争抑止力を高度化するべき理由を多端な国際的事変が説明している」と主張した。ベネズエラ事態を念頭に置いた認識という解釈が可能だ。 米国が現職国家元首の正確な位置を把握し、特殊部隊を浸透させて移送したという事実は、北朝鮮にとって決して他人事でなかったはずだ。米国が従来の原則と規範を否定する雰囲気は、北朝鮮がベネズエラ事態を無視できないようにする要素だ。トランプは「自身に国際法は必要なく、道徳性だけが唯一の制御装置」と話してきた。今回の事態はその発言が単なる修辞でないことを見せている。トランプに外交はただ米国の利益のための手段であり、外交が通用しない場合は軍事力を使用することもあるというメッセージだ。 金正恩は2017年のことを思い出すだろう。当時、トランプは北朝鮮に向けて「炎と怒り」などの表現をためらわず、同年9月には3つの空母打撃群を東海(トンヘ、日本名・日本海)に送って武力示威の強度を高めた。当時のトランプは言葉と脅迫で終えたが、ベネズエラ事態を通して米国はいざという時には行動に出るという点を示した。北朝鮮は核・ミサイル能力を高度化して過去とは異なる地位を強調するが、米国の強硬な行動も念頭に置かなければいけない。 特に北朝鮮を緊張させたもう一つの点は、米国がベネズエラの指導者だけを置き換える方法をとったという点だ。すべての権限が一人、すなわち首領に集中する唯一領導体制の社会の北朝鮮としては、米国の精密な情報力に基づく小規模軍事力投射と指揮部除去が最も警戒する対象となる。核保有国であり中国と国境が接していて、政権に対抗する組織化した内部抵抗勢力がない北朝鮮の特性上、イラク式体制転換は現実的に莫大な費用と危険が伴う。しかし指導者だけを除去して既得権層を活用する方式は全く違う問題だ。米国が北朝鮮にこうしたシナリオを適用する場合、短期的な混乱は避けられないが、エリート構造全体を覆さなければ比較的早い安定の確保も可能という計算が成立する。金正恩に与える圧力は決して軽くない。 結局、マドゥロ逮捕は金正恩の核に対する執着を強める結果を招くとみられる。金正恩がイラクのサダム・フセイン、リビアのムアマル・カダフィ、マドゥロの没落を核を保有しなかったためと考える可能性が高いからだ。同時にこの事件は逆説的に米国との対話のハードルを下げる契機になるとも考えられる。北朝鮮は依然として米国との対話に未練を見せていて、「TACO」でなく「「ふざけたまねをすると痛いめにあう(FAFO)」というトランプの力を直接目撃した状況で米国に対抗する場合、金正恩体制に向かう米国の軍事力使用の可能性を排除できないという点でだ。 4月に北京を訪問するトランプはまた金正恩と会おうとするかもしれない。金正恩が昨年10月のようにトランプの提案を拒否すれば、トランプの態度はいつでも急変する可能性がある。何よりも北朝鮮にとって根本的な脅威は、核を決して容認しない米国を適性国に置いている現実だ。言葉より力が先立つ時代に米国を相手にした北朝鮮の核カードは抑止力でなく、むしろ体制を脆弱にする負担として作用するとみられる。ベネズエラ事態が投げかける警告は明確だ。金正恩がこれをどう解釈するかによって北朝鮮の選択肢は狭まることもあり、逆に朝米関係改善の礎石という結果として表れることもある。 朴元坤(パク・ウォンゴン)/梨花女子大北朝鮮学科教授

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