古典的なスパイの手口「ヒューミント」 警察は経済安保で注意喚起

勤務先の営業秘密をロシア側に伝えたとして、警視庁公安部が20日、首都圏の工作機械メーカー元社員の30代の男を不正競争防止法違反(営業秘密の開示)容疑で東京地検に書類送検した。容疑を認めているという。漏らした相手はロシアのスパイだと警視庁はみている。 「スパイ」について日本に定義する法令はないが、一般的に、国の意向を受けた人物が、他国の政府や先端企業の情報を様々な手法で盗む行為をさす。 今回の事件は人の力に頼って情報収集する手法で「ヒューミント」と呼ばれる。昔ながらの手法ともいえ、ターゲットの企業や機関の関係者を協力者に育てるなどして情報を要求してくる。 捜査関係者によると、手順はこうだ。 まず、家族や生活実態、性格、経歴を把握したうえでターゲットを定め、道案内を頼んだり、ジムで声をかけたりして顔見知りになる。 ネット上や刊行物で入手できる程度の情報を求める。次に謝礼に金品を渡し、徐々に情報のレベルを上げる。ターゲットの心理的ハードルを少しずつ下げていき、法令や内規に抵触する情報を求めていく。 ターゲットが留学・海外旅行の時に接触し、関係を築く手口も、女性が近づくなどの「ハニートラップ」の手口もある。就職している自国民にスパイ行為をさせる行為もあるとされる。 ■簡単ではない「スパイ」の立件 アウトリーチで対策呼びかけ 警察当局によると、こうした事件は従来、スパイとターゲットが一定程度深い関係になった後に把握できるケースが多かった。関係性の解明や背景、立件に必要な証拠の収集は簡単ではなく、数年かかる事件も少なくないという。 今回の事件では、警視庁公安部は2024年秋ごろに2人の接触を把握し、25年3月、元社員に事情聴取した。元社員が軍事転用可能な製品の情報を漏らした形跡はなかったという。在日ロシア通商代表部の元職員は事情聴取とほぼ同時期に帰国したとされる。 先端技術の海外への流出防止については「経済安全保障上の課題」として、警察当局は、講演などを通じて企業や研究機関への働きかけを強めてきた。「アウトリーチ活動」と呼び、中国やロシアを念頭に、経済安全保障の強化を図る政府と足並みをそろえてきた。 一方、スパイをめぐっては、近年、インターネットを利用したサイバー攻撃や不正アクセスも脅威となっている。ウイルスを仕込んだメールを社員や職員に送ったり、偽のサイトに誘導したりして情報を抜き取るといった手口だ。 また、他国の情報を収集する諜報(ちょうほう)活動では、ヒューミントに加えて、電波やミサイルが発する電気信号などをつかむ「シグナル・インテリジェンス(シギント)」と、衛星画像で情報を集める「ジョイント」を合わせた「テクニカル・インフォメーション(テキント)」のほか、公開情報などを分析する「オープンソース・インフォメーション(オシント)」があり、先進国や紛争を抱えた国・地域が力を入れている。 ある捜査幹部は「先端企業などはこうした危険にさらされていることを認識し、対策をとってほしい」と話した。(八木拓郎) ■警察が摘発した外国人らが関与したとみられる情報漏洩(ろうえい)事件 ※適用した法律はいずれも不正競争防止法 2019年2月 超硬工具メーカー「富士精工」(愛知県)の製品情報を不正な利益を得る目的でコピーしたとして、愛知県警が、中国籍の社員を逮捕 19年6月 電子部品メーカー「NISSHA」(京都市)からスマートフォンなどに使うタッチセンサーの技術情報を持ち出したとして、京都府警が元社員を逮捕。競合する中国企業に転職していた 20年10月 積水化学工業(大阪市)からスマホのタッチパネルに使われる技術情報を中国の通信機器部品メーカー関係者に漏らしたとして、大阪府警が社員を書類送検(不起訴) 20年1月 ソフトバンク(東京都)の通信関連情報を不正に入手したとして、警視庁が元社員を逮捕。5月には、在日ロシア通商代表部の元代表代理を書類送検(不起訴) 23年6月 国立研究開発法人「産業技術総合研究所」(茨城県など)から先端技術を中国企業に漏らしたとして警視庁が中国籍の研究員を逮捕(松田果穂)

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