世界に広がる虚無主義的暴力過激派(NVE)…ポスト・イデオロギー時代の新たな脅威

陰謀論、極右、白人至上主義、ネオナチなど、かつて民主主義国が世界の多数派であった時代には考えられないような主張を目にすることが増えている。これらを主張する人々は、反移民や女性蔑視、マノスフィア、反ワクチンも同時に主張していることが多い。世界の先端を走るアメリカでは、アメリカ政府自身がこうした主張を行うようになった。【一田和樹】 【めまぐるしく変化を続ける過激派】 2020年代に入ってから陰謀論、極右、白人至上主義、ネオナチ、反移民、女性蔑視、マノスフィア、反ワクチンといった主張を行う人々は、そのイデオロギーに固執しているわけではないことが多く、複数にまたがっていたり、乗り換えたりすることも多い。 サラダバー過激派と呼ばれた所以である。少し前までは個人や小規模を単位としており、それが全体像をつかむことを難しくしていた。 これらの人々はアメリカ連邦議事堂襲撃事件をはじめとする数々の事件を引き起こしてきた。バイデン政権の時には、アメリカ国内最大の脅威として、人種や民族差別に動機づけられた過激派=RMVEs(Racially or Ethnically Motivated Violent Extremists)が挙げられていたくらいだ。 中でも危険視されていたのは白人至上主義の過激派で、テロによる死亡者はイスラム過激派の3倍だった。 しかし、これらはイデオロギーに従って組織的に活動していたかつての過激派と異なるため、実態がとらえにくく、過激な行動を予防する方法論も確立されていなかった。 彼らはその後も増加し、よりイデオロギーから離れていき、TikTokテロリスト、ポスト・イデオロギー過激派などと呼ばれる10代の若者が増加した。そして、今世界的な脅威とされているのが虚無主義的暴力過激派(NVE=Nihilistic Violent Extremism、以下NVE)だ。 少し前置きが長くなったが、今回ご紹介するNVEは、10代の若者を中心とした新しいタイプの過激派を指す。米FBIがテロのカテゴリーにNVEを加え、過激派に関する専門機関であるSoufan Center、ISD、GPAHEがNVEに注目していることからも、その脅威がわかると思う。 【NVEとはなにか】 NVEはひとことで言うと、「社会や人類全体に対する憎悪、虚無感、疎外感を背景に、特定の政治的・宗教的信念を持たず、社会への憎悪と破壊願望によって活動する過激派」といった感じになる。 よく特徴としては、挙げられるのは下記だ。 ・特定の政治的・宗教的信念を持たない。ただし、適当に既存のイデオロギーなどを取り入れるイデオロギー・サンプリングを行う。そのため、陰謀論、極右、白人至上主義、ネオナチ、反移民、女性蔑視、マノスフィア、反ワクチン、反LGBTQ+といったイデオロギーを組み合わせたり、乗り換えたりする。 ・既存の価値観の破壊を快く思い、美学やミームにこだわる。ネットコミュニティ内での地位や悪名を重視する。 ・SNSやオンラインゲームを通じて過激になっていくことが多い。SNSではTelegram、X、Instagramなどが利用され、オンラインゲーム関連ではRoblox、Discord、Minecraftなどが利用されることが多い。 ・ネット上の極右や陰謀論者などと比べて、NVEは階層構造がはっきりしており、明確なリーダーが存在していることが多い。 ・男性が多く、女性蔑視やマノスフィア、反LGBTQ+は広く共有されており、入り口(ゲートウェイ)として機能しているという指摘もある。 ・以前は年少者に対するセクストーションやCSAM(児童性虐待素材)など性的なものも多かったが、現在は暴力が中心となっている。相手を脅迫して自傷行為や他者への攻撃を行わせたり、自身の性的写真を撮影させたり、勧誘をさせるなどの行為を行っている。 【主要NVEと世界的な広がり】 NVEの主要グループには、下記のようなものがある。 ・The Com サイバー犯罪なども含んだ広範囲のネットワークで、その一部にNVEのグループも含まれている。分散型サイバー犯罪ソーシャルネットワークとして機能しているほか、自らの功績を自慢する場にもなっている。また、互いを攻撃(サイバーと物理の両方)して金を奪うようなことも横行している。かつてThe Comのメンバーだった19歳の少年がDOGEに参加したこともある。 10年以上活動を続けており、他のグループとの重複も多く、これを他のグループの吸収と呼んでいるレポートもある。サイバー犯罪とNVEは重複しないとされているが、ひとりの人物が両方に関わっていることもある。 ・764 2021年に、当時15歳の少年によって設立された。名称は彼の郵便番号の下3桁。若年層を標的に自傷行為や虐待を強要し、その記録を共有する国際的なグループとして知られていたが、リーダーと幹部が逮捕され、世代交代の後は暴力行為中心に変化した。 2021年から2024年にかけて、米国在住の764の少なくとも12名が、セクストーション、CSAM関連犯罪、未成年者に対する犯罪で逮捕された。 ネオナチや加速主義グループ、後述のMKYと関係を持っていることもわかっている。グループ内で分派し、676、CVLTIST、Court/Courtbox、Kaskar、Harm Nation、Leak Society、H3llなどの派生グループができた。これらを含めて764ネットワークなどと呼ぶこともある。 ・MKY(Maniac Murder Cult、Маньяки: культ убийства) MKYは2017年に活動を開始し、2019年には路上での乱闘や通行人(路上生活者とみられる者も含む)への襲撃を収めた短編動画がVKontakteで共有されるようになった。TelegramとVKontakteには、計38本の動画が公開されている。Telegramで共有された動画や画像は、ネオナチやスキンヘッドに関連するものが多い。 2021年には、ロシアの6つの都市で年間で計18名のMKYメンバーが逮捕された。ロシアの連邦保安庁(FSB)の発表によると、「ウクライナのネオナチ青年組織MKYの支持者106名に対する捜査を実施した」とされている。 MKYは、現行の社会秩序を暴力行為によって破壊しようとする過激な加速主義グループのひとつとされている。MKYに加入するためには、オンライン、オフラインを問わず、恐喝、虐待、暴力行為を行うことが要求される。 加入するためにルーマニア人の高齢女性を殺害し、さらに他の高齢男性を殺害しようとした様子を自ら撮影し、その後殺人および児童ポルノ所持の容疑でルーマニア当局に逮捕された男もいる。 白人至上主義、国家社会主義、ネオナチの要素を多く含むものの、活動の目的は政治的・革命的なものというよりは、悪名を高めるための混乱と混沌にある。 MKY指導部は毎月、犯罪活動の種類と記録の質に基づき「殺人ポイント」を割り当てる。必要なスコアを達成できなかったメンバーは活動停止や除名などの処罰の対象となる。MKYに関する虚偽情報の漏洩や拡散を行った者には死刑が科される。 ・TCC(True Crime Community) 2024年から2025年にかけて、アメリカで7件以上の学校銃乱射事件および未遂事件9件が、TCCに関係した個人によって実行された。11名の犠牲者(犯人を除く)と45名の負傷者が出ており、この期間におけるTCC関連学校銃乱射事件の死傷者数は、イデオロギー的動機を持つ過激派など、すべての犯罪を含めた中でも顕著に多い。 TCCは近年、最も多くの暴力を生み出した虚無主義的暴力のサブカルチャーとされている。特に東南アジアではTCCの脅威が高まっており、平均的な加害者の年齢は13歳から17歳とかなり若い。 実行した者は、凶悪な犯罪者という「名声」を求めていることが多く、事件のメディア報道によって他のTCCメンバーは盛り上がり、さらに次の犯行を生む可能性がある。 TCCメンバーは、WEB、Tumblr、Reddit、Xなど多くのネット空間に存在しており、過去の銃乱射犯や大量殺戮犯を崇拝・美化している。 メンバーはこうした殺人犯の熱狂的なファンであり、殺人犯と同じ服装をし、学校のノートに名前を書き、部屋やロッカーに写真を貼っている。中には、自らを「ハイブリストフィリア」(暴力犯罪者に性的魅力を感じる者)と称してはばからない者もいる。 TCCのメンバーは、殺人の実行にあたって計画書やマニュアルといった記録を残すことが多い。2025年1月にナッシュビルの高校で同級生を殺害したソロモン・ヘンダーソンは、その計画を詳細に書き残していた。崇拝する殺人犯と同じポーズで撮った写真もあった。 2025年8月にミネソタ州で銃撃事件を起こしたロビン・ウェストマンは、ネット上に大量殺戮犯に関する詳しい情報を残していた。 TCCの活動は、2024年12月にウィスコンシン州で発生したアバンダント・ライフ教会銃乱射事件の後に加速した。犯人は15歳の少女で、この事件でTCC内で最高レベルの悪名を得た。 事件以前からTCCコミュニティ内で活発に活動していたため、彼女はコミュニティメンバーによく知られており、事件後に彼女のファンが分析できる豊富な記録を残していた。 彼女の悪名は、2025年1月のアンティオク高校銃撃犯が犯行前に彼女に言及したこと、さらに2025年8月の受胎告知教会銃撃犯がライフルに彼女の名前を記していたことで、さらに高まった。こうして殺人の連鎖が続いている。 ・O9A(Order of Nine Angles) O9Aは1970年代から活動しているサタニスト/オカルト集団であり、少数のメンバーで存続してきたが、近年、764との関連でよく取り上げられるようになった。社会規範の転覆を掲げ、NVEネットワークに暗くエッジの効いた美学を提供している。 上記は氷山の一角であり、このほかにも多数のNVEグループが存在し、世界各地に広がって事件を起こしている。アメリカやヨーロッパは当然として、アジアや南米でも事件を起こしている。 たとえば、インドネシアでは17歳が北ジャカルタ国立高校爆破事件を起こし、マレーシアでは14歳が刺傷事件、タイでは12歳、13歳がショッピングモール銃撃事件を計画し、シンガポールでは14歳が未遂事件を起こしている。 【日本にNVEは存在するのか?】 日本に住んでいると、NVEのような存在はにわかには信じられないと思う。しかし、日本でもNVE、あるいは類似のグループが増える可能性は低くない。そう考える理由は、世界各地で起きていて、日本だけで起きない理由が見当たらないからだ。 しかし、いまのところ日本でNVEらしい事件が起きていないのも事実だ(正確には2021年頃複数の事件はあったが、その後はないようだ)。なぜまだ日本で起きていないのだろうかと考えると、非常に個人的な感触で恐縮だが、BreakingDownという格闘技大会の存在が少なからずあるような気がした。 BreakingDownは1分間最強を競う格闘技の大会で、プロと素人が同じリングで戦う。日本全国の喧嘩自慢や前科のある者など、さまざまな背景を持つ人間が集ってくる。BreakingDownのオーディションを通り、本戦に出場できれば一挙にネットの有名人になれる可能性があり、そこで勝てば、その知名度はさらに高まる。 有名人になることで、自身のYouTubeなどネット活動へのアクセスが増え、スポンサーもつきやすくなって収入にもつながるし、飲食店などのビジネスであれば客が増える。さらに主宰者である朝倉未来などの影響もあって、そこには一定の美学がある。単に強いだけでは人気は出ないのだ。 さまざまな面でNVEに重なるものがあるような気がするのだが、BreakingDownはそれを表の世界で解放することに成功している。そして、日本でのNVEに似た事件は起きていたが、BreakingDownが広く世の中に認知されるようになった2022年以降は起きていない。 いずれにしても、世界的な脅威となっているNVEは日本で広がる可能性が高く、そのため、日本においてもNVEの研究を行い、対策を考えておく必要があるのは間違いない。

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