社説:中国大使館侵入 政治と絡めぬ対処必要

事件の全容解明と再発防止に、真摯(しんし)な取り組みが必要である。 刃物を持った現職の幹部自衛官が、中国大使館(東京都港区)の敷地内に侵入し、警視庁に逮捕された。 容疑者は捜査に対し、「大使に意見を伝えようとした。聞き入れられなかったら自決して驚かせようと思った」と話しているという。日中関係の悪化が背景にあるとみられる。 大使館の安全確保はウィーン条約で定められており、受け入れ国としての義務だ。日本の国際的な信用を失墜させかねず、警備体制も問われる。 中国外務省が「日本政府は警備責任を果たせなかった」と抗議するのは当然で、相手がどの国で、どんな関係であろうと、言語道断の国家公務員の犯罪に対し、政府は率直に非を認めるべきだろう。 ところが、木原稔官房長官と小泉進次郎防衛相は、それぞれ「法を順守すべき自衛官が逮捕されたことは誠に遺憾だ」と述べるにとどまり、謝罪を避けている。 中国は、高市早苗首相の「台湾有事」発言を機に、批判や対抗措置を強めている。 今回の事件でも中国外務省は「日本で極右思想がはびこり『新型軍国主義』が勢いを増して脅威になっている」と述べた。容認できない極端な主張だが、事件がさらなる対日圧力の口実にされる可能性がある。 日本側が政治的な判断を絡め、あいまいな対応を続けるようなら、なおさらではないか。 逮捕された自衛官は大学卒業後に入隊し、今年1月に幹部候補生学校を修了して配属されたばかりという。 再発防止には、個人の暴走として処理するのではなく、自衛官の教育に問題はなかったのかも検証が欠かせない。 近年、幹部学校などで、戦争肯定や改憲を主張する右派論者を講師に招いていることを、危ぶむ防衛大教授の告発もあった。 防衛力の根幹は人材にほかならない。続く不祥事のたびに防衛省は対策を講じているが、これでは実効性が疑われよう。 高市氏は国会での発言後、「対話はオープンで、扉を閉ざすようなことはしていない」と繰り返すばかりで、受け身の構えに終始している。事件の収拾に指導力を発揮してはどうか。 冷静に対話の糸口を探り、リスクを低減する外交の力が問われている。

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