【社説】民事裁判IT化 利便性高め審理の充実を

民事裁判が全面的にIT化された。紙の文書と対面でのやりとりが中心だった手続きを、オンラインでできるようにした大改革だ。効率化を審理の充実につなげたい。 提訴から判決までの一連の司法手続きに、インターネット環境を積極的に活用する改正民事訴訟法が2022年に成立し、段階的に改革が進められてきた。 先月21日の全面施行で、郵送や裁判所に持参していた訴状は弁護士によるオンライン提出が義務付けられた。代理人を付けない本人訴訟は従来通り、紙の書面も認める。 判決文の受け取り、裁判記録の閲覧などもオンラインで可能になった。社会全体のIT化が進む中、利便性の向上が期待される。 日本の民事裁判は手続きが非効率で、先進国の中でもIT化が大幅に遅れていた。法的トラブルの対応に難があれば海外企業の進出を妨げかねず、経済界などから改善を求める声が高まっていた。 課題は、高齢者らITと縁遠い「デジタル弱者」への配慮だ。不利益を被らないための不断の検証が欠かせない。 民事裁判では経済的理由で本人訴訟を選ぶ人もいる。パソコンを持たないなど、手続きに苦慮する場面は多々あるだろう。憲法が保障する「裁判を受ける権利」を等しく享受できるよう、各弁護士会は支援体制を整えてほしい。 弁護士の能力も問われる。書面のオンライン提出には裁判所システムへの登録が必要だ。日弁連によると、昨年10月時点で登録した弁護士は6割強にとどまる。 特に高齢の弁護士はパソコン操作に苦手意識が強い。習熟度アップへの本人の努力はもちろん、継続的な研修が求められる。 今回、証人尋問も当事者双方に異議がなく裁判所が認めればオンラインで可能となった。口頭弁論は既に24年から導入されており、昨年は10万件を超えて定着している。 ただ、ネットを経由した映像と音声では原告らの窮状が伝わりにくいのではないか。裁判官が証言の真偽を判断しづらい面もありそうだ。 争いの本質的な部分では対面も含めて十分に時間をかけるなど、審理の充実につながる適切な運用を求めたい。 肝に銘じるべきは、裁判所支部の統廃合や、裁判官が常駐しない地域を増やす合理化の口実にさせてはならないことだ。市民が司法を利用する機会を妨げる結果になれば、本末転倒である。 司法手続きのIT化は民事裁判以外でも進んでいる。刑事は27年3月末までに、逮捕や捜索令状をオンラインで請求・発付できるようになる。家庭裁判所も調停や審判の申し立てに導入する予定だ。 IT化ならではのトラブルも想定される。電子記録の漏えいや改ざんは司法への信頼を損ないかねない。通信障害への備えも含め、万全を尽くさねばならない。

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