メーガン妃への「悪意ある中傷」を今すぐ止めなくてはならない理由

メーガン妃が臨月に病室で陽気に踊る動画を投稿したのは、他の母親たちにも共感される日常の1コマを共有したつもりだったのだろう。 しかし、数時間も経たないうちに、ネット上の荒らしや陰謀論者たちは「偽装妊娠」の「証拠」として利用し始めた。 これが現在のメーガン妃の現実だ。どんな幸福な瞬間でさえも、彼女を傷つけるための弾丸に変えられてしまう。攻撃を生業(なりわい)にする人々にとって、彼女の存在そのものが標的なのだ。罪があるとすれば、王子に恋をしたことだ。 「ムーンバンプ」(妊婦のお腹を模したシリコン製の装身具)でメーガン妃が妊娠を偽装し、人工腹をつけていたという陰謀論は、特に悪質だ。 メーガン妃は流産を経験した辛い体験談を勇敢にも語り、同じ経験を持つ女性たちに寄り添おうとしてきた。それにもかかわらず陰謀論者たちは、その後の妊娠すら「デマ」だったと主張した。 体の痛みに耐えて妊娠9カ月間に命を育み、生命の誕生を準備し、写真を1枚するだけで「赤ちゃんは実在しない」と全世界の見知らぬ人々に「検証」される──これが現実として起きている。 メーガン妃は2019年、アーチー王子を妊娠中に「世界で最も中傷された人物」だったと明かし、その嫌がらせによって自殺願望を抱くまで追い込まれたと語っている。妊娠中の女性が、他人の娯楽のために絶望の縁に立たされたのだ。 今回のダンス動画は、その状況を端的に示したものだ。出産を促すための、母親であれば共感できる微笑ましい瞬間だったはずが、数時間後には陰謀論者の「証拠映像」となった。 陰謀論者は腹部の動きに注目して「人工腹だ」と主張し、点滴を見ては「医療知識」を振りかざした。歓びの瞬間は、すぐに武器に変えられた。 これは普通の批判ではない。精神を破壊するための心理的拷問だ。しかも、これは偶発的な悪意でもない。メーガン妃の苦しみが誰かの利益になるなど、組織的かつ金銭化を伴っている。 YouTubeではメーガン妃の妊娠を「偽装」とする動画が何百万ドルもの収益を上げ、イギリスのタブロイド紙は彼女を攻撃することで読者を獲得している。 SNSのインフルエンサーは、メーガンを叩けば他のどんなコンテンツよりも稼げることに気づいた。メーガン妃へのヘイト(憎悪)が最も収益性の高いビジネスになっているのだ。 ネット上の攻撃は現実世界でも深刻な脅威へとつながっている。イギリスのテロ対策の元責任者は、メーガン妃が極右過激派から「うんざりするほどリアルで卑劣な脅迫を受けていた」と明かしている。 実際に陰謀が複数確認され、殺害予告で逮捕者も出ている。新米ママとして母親業をこなす傍らで、ネット上の憎悪と本物のテロの脅迫の影で生きてきた。 メーガン妃はこの攻撃について「生き抜くのがギリギリだった」と語っている。辛うじて生き延びたという意味だ。 夫であるヘンリー王子のサポートでセラピーを受けながら、強い意志でなんとか耐え抜いたが、本来なら「生き抜く」などという言葉は必要ないはずだ。誰もが普通に妊娠を享受できる。 しかし、攻撃はメーガン妃だけにとどまらない。メーガン妃を擁護する勇気ある者もまた標的になる。つまり「彼女[メーガン妃]の味方をすれば、あなたも狙われる」というメッセージだ。 目的はメーガン妃を孤立させ、味方も希望もないと思わせるのが狙いだ。 ヘイトを拡散するSNS、クリック目的で陰謀論を報じるメディア、それを許容し続ける私たち社会全体にも責任がある。 メーガン妃は実在する人間であり、2人の子どもの母親だ。その彼女が喜びすら安心して表現できない現状は、「ムーンバンプ陰謀論」が単なるデマではなく、持続的な残酷行為であるということを物語っている。黒人であり、アメリカ人であり、沈黙を拒んだ女性が王室の一員となったという理由だけで。 今夜もメーガン妃は、見知らぬ人々に「存在しない」と言われる我が子を見て、その成長を自由に喜びを表現できる日は、来るのだろうかと考えているかもしれない。陰謀論者たちは、母親としての歓びさえも奪ってきたのだ。 今、これを止める良心を見つけることができないのであれば、私たちは社会として、そして人として、この醜い真実に向き合わねばならない。 妊婦が追い込まれるほど苦しみ、その痛みが誰かの利益や娯楽になるとき、私たちの人間性の根本的な部分が失われているのだ。 クリストファー・ブージー(Christopher Bouzy ) 調査会社「Bot Sentinel」とSNS「Spoutible」を設立したアメリカのテック起業家。革新的なテクノロジーを駆使して、より安全なデジタル空間の創造と信頼できるオンライン言論空間の促進にたずさわっている。

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