《ブラジル》AI監視網で1600人逮捕=「ビッグ・ブラザー」化進む

サンパウロ市が導入した最新鋭の監視システム「スマート・サンパ」は、市内約3万1千台の監視カメラと人工知能(AI)による顔認識技術を駆使し、犯罪や逃亡犯の特定から逮捕までを迅速化した。同システムは現場到着までの平均時間を10分未満に短縮し、1600人以上の逮捕に寄与。民間パートナーの機器も含め、年内には4万台を目指して拡大中だ。膨大な映像情報と高度な分析技術を統合し、市内全域の治安維持に大きな役割を果たしている現状を11日付エスタード紙が報じた。 サンパウロ市セントロに位置する監視センターでは、顔認識で検知された逃亡犯の映像が大型モニターに映し出される。同システムは〝ビッグ・ブラザー〟(ジョージ・オーウェルの小説に登場する全体監視社会を象徴する言葉)的な監視体制を敷き、警備チームが迅速に対応可能な現場へ連絡し、最寄りの市民警備隊が即座に逮捕に向かう体制が整えられている。これにより、逃亡犯が地下鉄やバスなどの公共交通機関に逃げ込む前に捕捉することが可能となった。 監視カメラの内、約2万台は市と民間のコンソーシアムによって運用され、残りは民間パートナーが運用している。市当局は「監視カメラがない地域は存在しない」と述べ、増設を進める。月額約1千万レアル(約2億7千万円)規模の投資が行われている同システムは、リカルド・ヌネス市長の重要政策の一つだ。 逮捕件数が多い地域として、セントロのブラスやボン・レチロ地区が挙げられる。監視センター前に設置された「逮捕数計測パネル」は、現在の逮捕状況をリアルタイムで市民に示している。3千件を超える現行犯逮捕と79人の行方不明者発見の成果も報告されている。 AIは、容疑者の衣服や持ち物などの特徴を含めて瞬時に分析し、最も近い警備隊へと通報する。監視の対象は主に強盗や麻薬取引だが、殺人未遂や強姦など多様な犯罪者も捕捉されている。 一方で、顔認識技術の誤認によるトラブルも報告されている。これまでに23人が誤認逮捕され、53人は逮捕後に釈放された。双子や類似顔の人物の誤認も散見されており、現場では身分証の提示や追加確認が義務付けられている。 監視システムの普及に伴い、プライバシーや人権侵害の懸念も強まっている。国内の専門機関や市民団体は、認識技術の精度や透明性の不足、法整備の遅れを指摘。米国の一部都市や欧州連合では顔認識技術の公共利用を制限する動きもあり、ブラジルでも適切なルールづくりが求められている。現行の一般データ保護法(LGPD)は治安目的のデータ利用に明確な規定をしておらず、「法的空白」が指摘されている。 システム導入までには、検察庁など複数の機関からの人種的偏見の疑いに関する指摘があり、約2年間の審査期間を経て稼働開始に至った経緯がある。市の保安局長は、技術の精度を92%以上と厳格に設定し、専門家の批判を「根拠のないもの」と退けている。 専門家は、監視システムの効果を最大限に引き出すためには、単なる犯罪の検挙に止まらず、地域特性や犯罪の根本原因を分析する調査能力の強化が不可欠だと指摘した。 監視機器の設置はバス車内や市立学校約400校にも及び、市議会や地域団体からはさらなる設置要望が寄せられている。公道向けのカメラ導入にあたっては、対象施設に一定の技術基準が求められ、市当局のみが顔認識情報へアクセスできる体制が整えられている。 約400人の警備隊員が監視センターに常駐し、監視ネットワークは豪雨や大規模イベントの管理にも活用されている。今後は市警のバイク隊へのカメラ搭載が計画されており、州政府の監視プログラムとの連携も進められている。州保安局は「犯罪関係の車両や指名手配者に関するリアルタイム警告が発信されている」とし、「監視体制強化は市と州の継続的な協議の成果」と説明している。

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