近年、大学スポーツ界で大麻事件が相次いでいる。23年には逮捕者を出した日大アメフト部が廃部、今年も天理大ラグビー部、国士舘大柔道部などその道の名門で使用が発覚した。なぜ大学スポーツ界でまん延するのか。大学スポーツと薬物の関係に詳しい追手門学院大客員教授の吉田良治氏(63)に聞いた。 (取材・構成 波多野 詩菜) 警視庁のデータによれば、24年の大学生の大麻事犯摘発人数は229人。15年の29人と比較すると、10年間で約8倍だ。近年、大学で問題となっているのは部活内でのまん延。多くは「寮での所持や使用」という共通項がある。吉田氏は日本特有の、寮生活の在り方にこそ問題が潜むと指摘する。 「私が一番危惧しているのは“スポーツ漬け”となるところ。合宿生活が24時間365日続いているのが学生スポーツの寮。狭い世界で生活しているので、一般的な社会常識を身につけずに成長してしまう」 授業以外の時間をほぼ寮で過ごす傾向が強く、社会との関わりが少ない分、逃げ道も少ない。気分転換や息抜きが飲酒や喫煙、果てにはSNSなどで気軽に入手できてしまう薬物にもつながってしまう。 ワシントン大でアメフト部アシスタントコーチを務めたこともある同氏は、米国との寮生活では決定的な違いがあるという。 「米国ではスポーツ専用寮は基本的にはなく一般の学生と同じ寮に住む。スポーツ活動には時間制限があり、基本的に週に20時間で、1日長くても約3時間。シーズンは年間の約5割。つまり半分以上はスポーツと離れて生活する時間があり、社会活動や社会貢献に参加する時間があることで人間的成長につながっていく」。狭い世界で過ごす時間が少ないゆえに、薬物使用者が出ても「チーム内でまん延することはまずない」と言い切る。 日本の大学生の摘発数は新型コロナが流行し始めた20年に初めて200人を超えた。同氏は「孤立」が拍車をかけたと考える。 「部活のできない、寮や家からも出られない自由な時間に何をしていいのか分からない。その時にたまたまチームメートや友達から声をかけられて、ということもある。今はスマホでいろいろな情報が出るが、社会との関わりが薄くなった分、判断のハードルが下がってしまったところもあるのではないか」 また、大麻所持や使用の発覚後の対処にも課題があるという。 「学校はその場しのぎで謝罪会見を開き、再発防止に努めますと念仏を唱える。警察などを招きアリバイづくりの再発防止研修。罪と罰により当該学生や指導者を処分し、チームに連帯責任を負わせる。私は“昭和の不祥事4点セット”という言い方をしているが、実際にこの4つほどの対応しかない」 日本では執行猶予がついて刑法で更生への道が与えられても、大学は退学処分を下すなど“切り捨て”で終わらせることも多い。本当に必要な再犯防止策とは一時的な対処ではなく、学生に生き直す機会を与え、一生不祥事とは無縁の人生を歩むようにしていくこと。米国では主流で、日本でも企業や教育現場で実施される「ライフスキルプログラム」の学習は有効だという。 「人に評価されるのではなく、毎日の実践を自分で評価し、今日よりも明日、あさってと進化させていく。重要なのは風化させずチームの中に定着して根付かせていくこと。その場しのぎのではない実践的なライフスキルプログラムを日々できる体制をつくることが大事」 スポーツ漬けの昭和型部活の在り方を変え、社会との接点を増やし、的確な再犯防止策を取り入れる。大学スポーツと大麻の関係を断ち切る手だてはある。 ≪高校野球にも影落とす 寮生活が要因の閉塞感≫ 日本特有の寮生活の閉塞感は、高校野球の世界にも影を落とす。今夏の甲子園では、寮内での複数の上級生による下級生への暴力事案などを受けて、広島県代表の広陵が途中で辞退する最悪の結末を迎えた。「暴力は犯罪行為」という当たり前の認識の欠如は、閉鎖的空間で常態化してきた可能性がある。 ▽法改正 以前は大麻の使用は罪には問われなかったが、24年12月12日以降は大麻使用罪が施行され、1カ月以上7年以下の拘禁刑が科されることになった。所持や譲り受け、譲渡も最長5年から7年に厳罰化された。