(CNN) 米ノースカロライナ州シャーロット中心部から数キロ離れたスケイリーバーク駅。駅に到着した深夜の列車に乗り込んだとき、イリーナ・ザルツカさん(23)はごく普通の乗客の一人に過ぎなかった。カーキ色のズボンに黒のTシャツという格好で、長い金髪は勤務先のピザ店の帽子の下にしまわれていた。 列車が走り続ける中、ザルツカさんは付近の乗客と同じようにうつむき、手にした携帯電話に夢中になった。ウクライナ難民のザルツカさんは空いている座席の列を選び、赤いパーカーを着た男の前に座っていた。2人の運命がもうすぐ交錯するとは思いもよらずに。 わずか4分後、後ろに座るデカルロス・ブラウン容疑者はポケットに手を入れ、ナイフとみられる物を取り出した。一瞬、ブラウン容疑者は窓の外に目をやった。それ以外に何もやることがないかのようだったが、素早い動きで立ち上がると、座席越しに腕を振り下ろし、ザルツカさんを刺殺。ザルツカさんは顔と喉(のど)を押さえ、その場に崩れ落ちた。 乗客らが膝(ひざ)をついて救命を試みたものの、ザルツカさんは刺し傷が原因で列車内で死亡した。ブラウン容疑者は第1級殺人の罪に問われている。 襲撃の様子を捉えた映像の公開を受け、トランプ政権や保守派政治家からは、今回の刺殺やブラウン容疑者の前科の数々(その中には強盗や窃盗、不法侵入での有罪判決も含まれていた)を巡り、全米各地の民主党主導都市にはびこる凶悪犯罪の一例だと非難する声が上がっている。 今回の事件は政権がロサンゼルスや首都ワシントンへの連邦軍派遣の正当化を試みる中で発生しており、政治的な争点となりつつある。トランプ大統領はシカゴへの州兵派遣もほのめかしている。 トランプ氏はSNSトゥルース・ソーシャルで「ノースカロライナ州をはじめ、あらゆる州が法と秩序を必要としている。それを実現できるのは共和党しかない」とコメント。ブラウン容疑者を「職業的な犯罪者」と形容した。 一方、シャーロットのライルズ市長と容疑者の家族はいずれも、精神疾患の記録や強盗、窃盗及び不法侵入での前科があるにもかかわらず、ブラウン容疑者の地域社会復帰を許した司法制度の欠陥こそが事件の一因だと指摘している。 暴力から逃れてきた米国で再び暴力に直面した女性と、刑事司法制度からも医療制度からも見放されたと家族に思われている男。最終的に、2人が歩んだ道は死という形で交差した。