火災保険元エース調査員の放火 再調査の損保各社「過去案件は問題なし」に浮かぶ疑問

保険会社を巡る不祥事が後を絶たない。先日も日本生命保険(日生)の社員が出向先の三菱UFJ銀行から内部情報を不正に持ち出していたことが発覚。中古車大手の旧ビッグモーター(BM)による保険金不正請求問題では、保険代理店を兼ねていたBMと大手損保のなれ合いの構図が露呈した。警察が今年摘発した元火災保険調査員による放火事件では、業務委託していた各損保の対応が問われたが、当事者意識はどこか希薄だ。 元火災保険調査員による放火事件は今年4月以降、岡山、青森、岐阜の各県警が順次摘発したことで明るみに出た。保険調査会社の最大手「損害保険リサーチ」に令和5年まで在籍していた深町優将(まさのぶ)被告(54)らが保険金目的で各地の古民家に放火したとされる。深町被告はかつてエースと呼ばれるほど火災保険の申請に精通。その知識を悪用した一連の事件は業界に衝撃を与えた。 深町被告は損保リサーチ在籍時や独立後の会社で、いずれも東京に本社を置く東京海上日動火災保険▽あいおいニッセイ同和損害保険▽三井住友海上火災保険▽損害保険ジャパン-など大手からの調査業務も数多く担当。だが報道を受けてからも各社の対応は鈍く、深町被告が関連する過去の調査業務を再調査すると表明したのは、最も早い東京海上で最初の逮捕から約2カ月後の6月下旬だった。 現在までにあいおいを除く3社が再調査を終え、同社も間もなく完了する見込み。対象件数は東京海上と三井住友海上だけで計約580件に上った。損保ジャパンは件数を非公表とした。 再調査を終えた3社いずれも、結論として「過去の案件に問題はなかった」としているが、判断の根拠など詳細は「業務に支障が出る」と明らかにしていない。 ある大手損保の担当者は「あくまで調査員だった一個人の不正。損保リサーチの組織的な問題ではない」とし、業界全体の信頼にかかわる問題とはみていない。 確かに岡山、青森両県での犯行は損保リサーチ退職後だったため、同社も業務委託契約をしている全国の調査員に「事件は退職後に発生した」とするメールを送信し、水面下で火消しを図った。しかし、岐阜県警が今月11日に発表した深町被告の逮捕容疑は損保リサーチ在籍時のものだった。 もともと損保リサーチは各保険会社の共同出資で半世紀前に設立され、社長は東京海上、三井住友海上、損保ジャパン出身者らの持ち回りだ。

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