化学機械メーカー「大川原化工機」(横浜市)の冤罪(えんざい)事件で、立件に不利な実験データを報告書から削除したとして、虚偽有印公文書作成・同行使容疑で告発された警視庁公安部の当時の捜査員2人に対する不起訴処分(容疑不十分)について、東京第6検察審査会は「不起訴不当」とする議決を出した。議決は17日付。大川原化工機の代理人弁護士が明らかにした。 東京地検は再捜査し、起訴するかどうか改めて判断する。大川原化工機が起こした国家賠償訴訟で警視庁の捜査は違法と認定されており、「市民の目」から捜査のやり直しを求められた形だ。ただし、再び不起訴とした場合は捜査は終結する。 公安部は大川原化工機の噴霧乾燥器が生物兵器の製造に転用可能とみて2017年に捜査を開始。不正輸出の立証には噴霧乾燥器に内部を殺菌する能力があることが必要と考え、装置を空だきした熱で殺菌できれば条件を満たすとの独自解釈を打ち立てた。 公安部は温度実験を複数回実施し「殺菌できる温度まで上がった」とする報告書を作成。これを根拠の一つとして20年3月に外為法違反容疑で社長ら3人を逮捕した。東京地検はいったんは起訴したものの、21年7月に「犯罪が立証できない」として起訴を取り消した。 その後の国賠訴訟で捜査に携わった複数の現役警察官が証言し、公安部が温度実験の一部で条件に達しなかったデータを報告書から削除した疑いが浮上。大川原側は24年4月、故意にデータを削除したとして、捜査を指揮した元警部=定年退職=と報告書を作成した巡査部長(当時)を警視庁捜査2課に刑事告発した。書類送検を受けた地検は25年1月、報告書が虚偽と言えるか「疑義がある」とし、2人を不起訴処分としていた。 警視庁が8月に公表した検証報告書は、元警部について「自身の捜査方針にそぐわない消極要素に対し、十分な注意を払っていなかった」と批判。一方で、事件で成果を挙げて社会に貢献するという思いがあったとも認定し、減給(100分の10)1カ月の懲戒処分相当とした。巡査部長への言及はなく、処分対象にも含まれなかった。【北村秀徳】