数年前、ある地裁の証言台に児童精神科医の山下エミさん(仮名、50代)が座った。法廷では、少女への性的虐待の罪に問われた父親の公判が開かれている。父親の隣に立つ弁護人が、山下さんに問いかけた。 「娘の証言はうそではないか?」「病気と言うのも演技では?」 被害者は精神的ショックが大きく、とても法廷で証言できない。彼女の代わりに、診察した山下さんが証人尋問に臨んでいるのだ。弁護人からの質問に対し、冷静に回答していく。ただ、質問は弁護人だけではない。 女性裁判官が山下さんにこう尋ねた。 「今は共学の高校に通っているんですよね。もう被害を忘れているのでは?」 山下さんは耳を疑った。出廷したのが少女でなくて本当によかった。無神経な言葉の一つ一つが2次加害になり得ることを、法律のプロたちはまったく理解していないと感じた。(共同通信=宮本寛)