戦慄の事件発生から12年。ようやく真相究明のための裁判が始まる――。 11月26日に京都地裁で行われることが決まったのは、殺人罪などに問われている特定危険指定暴力団・工藤会系組幹部の田中幸雄被告(58)の初公判だ。田中被告は’13年12月、『王将フードサービス(以下、王将。前身の社も含む)』の社長だった大東隆行氏(当時72)を射殺したとされる。 「事件当日の早朝、大東氏は本社前の駐車場で射殺されました。しかし、捜査は難航します。目撃者はおらず物的証拠も少ない。警察は現場に残されたタバコの吸い殻に付着したDNAや防犯カメラの映像を慎重に調べ、事件から9年後の’22年10月にようやく田中被告を逮捕したんです」(全国紙社会部記者) ◆「ウミを出し切る」 だが大東氏と親交がなかったとされる田中被告の犯行動機や、指示役がいたかなど不明な点は多い。事件に影響したと考えられるのが、当時『王将』が抱えていた多額の負債だ。 「『王将』経営に暗雲が垂れ込め始めたのは、創業から約10年後の1977年ごろからでした。創業者が、同じ福岡県出身の経営者A氏と知り合ったことがキッカケです。A氏は政財界に顔が広く、『王将』が全国チェーンへ成長する過程でトラブル処理などを頼っていたとされます。 創業者が亡くなった後も、『王将』はA氏との関係を深めていきます。A氏の企業グループへの不正取引は260億円にのぼり、そのうち約170億円が回収不能になっていたそうです」(同前) 経営を立て直すべく’00年4月に4代目社長に就任したのが、創業者の妻を姉に持つ大東氏だった。大東氏は「ウミを出し切る」と『王将』の再建に臨んだ。 「しかし『王将』はなかなかA氏との関係を断ち切れなかったようです。憂慮した大東氏は、不適切取引に関する報告書の原案を’13年9月の臨時取締役会に示します。報告書は同年11月に完成しましたが、さまざまな反発にあい非公開となりました。当時、大東氏は周囲に『殺されるかもしれない』と話していたそうです」(同前) 大東氏が何者かに銃撃され命を落としたのは、その約1ヵ月後だ。 ◆「生涯このことを後悔するぞ!」 「大東氏は社員が出社する前の早朝に、長靴姿で本社周辺に水をまき掃除するのを日課にしていました。犯人は、そこを狙ったようです。事件が起きたのは早朝6時前。目撃者や発砲音を聞いた人はおらず、捜査は難航しました」(別の社会部記者) 冒頭で紹介した通り、事件発生から約9年後にようやく逮捕されたのが工藤会系組幹部・田中被告だった。 「犯人は、ヒットマンとして相当優秀だったのでしょう。凶器に使われたのは25口径の自動式拳銃ですが、手のひらサイズで殺傷能力が低い。かなりのスキルを身につけていないと使いこなせません」(同前) 11月26日から行われる裁判は異例ずくめだ。元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏が語る。 「京都地裁が、裁判員裁判の対象から外し裁判官の合議で行うことを決めたんです。被告が工藤会系組の幹部ですからね。過去の裁判では、死刑判決を受けた工藤会のトップが裁判長に向け『アンタ、生涯このことを後悔するぞ!』と言い放ったこともあります。一般の人が裁判員として判決に関与すると、自身や家族に危害が及ぶ恐れがあるんです」 田中被告の弁護側は、公判で無罪を主張するとみられている。