アンソニー・ザーカー北米特派員 アメリカ各地で先週末に行われた「No Kings(王はいらない)」抗議デモには、ドナルド・トランプ大統領の政策と、大統領権限の限界を押し広げようとするその姿勢に抗議するため、推定数百万人が参加した。 アメリカの左派が国内政治で正式な権限をほとんど持っていない現状で、志を同じくする民主党支持者とリベラルと一部の反トランプ共和党員が、まとまって行動できる機会となった。 だが、この人たちはここからどこへ向かうのか? 多くの情報によると、18日のイベントの参加者数は予想を上回り、6月に行われた初回の「王はいらない」集会を超えた。シカゴ、ニューヨーク、ワシントン、ロサンゼルスなどの主要都市に加え、数百の小都市でも開催された。 連邦議会の共和党議員たちは前もって、一連の抗議活動は「反米的」なものになると警告し、一部の保守派知事は暴力沙汰の可能性に備えて警察や州兵を警戒態勢に置いた。 しかし、各地の大規模集会は平和的に行われ、惨事ではなくお祭りのような雰囲気だった。ニューヨーク市では抗議関連の逮捕者は出ず、首都ワシントンの集会では家族連れや幼い子どもたちの姿も目立った。 「アメリカ全土で今日、この国で過去に行われた最大級の抗議をどれも超えるほどの人数が集まり、アメリカ人は声高に、誇りを持ってこう言っている。我々は自由な民で、支配される民ではないと。我々の政府は売り物ではないと」。民主党のクリス・マーフィー上院議員(コネチカット州選出)は、首都ワシントンの集会でこう演説した。 ワシントンの「王はいらない」集会のすぐ近くでは、ホワイトハウスが抗議を冷笑した。「どうでもいい」。アビゲイル・ジャクソン副報道官は複数のメディアの問い合わせに、こう書いて答えた。 トランプ大統領は自分のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」で、自分が王冠をかぶった様子のAI生成動画を複数共有した。その中には、「トランプ王」と機体に描かれたジェット機を王冠をかぶった自分が操縦し、通りを埋め尽くす抗議者に人間の排泄(はいせつ)物のようなものを投下するというAI映像も含まれていた。 週末の抗議は大したものではないという態度を共和党がとる一方で、抗議に参加者した人数と、主要世論調査におけるトランプ氏の純支持率がマイナス状態にあることを合わせると、民主党が昨年の選挙での敗北から立ち直れるかもしれない可能性がうかがえる。 とはいえ、民主党にとって道のりはまだまだ長い。 世論調査によると、民主党を好感するアメリカ国民はわずか3割に過ぎない。これは過去数十年で最低の水準だ。そして民主党内では、連邦議会の両院を失った今、トランプ氏に対して効果的な野党としてどう活動すべきなのか、意見が分かれている。 リベラルな人たちは18日、さまざまな理由で街に出た。トランプ氏の強硬な移民政策、関税政策、政府支出削減、外交政策、州兵の国内都市派遣、慣例を破る大統領権限の行使などが繰り返し、懸念と怒りの対象として挙げられた。 デモに参加した人たちの不満の一部は、民主党指導部にも向けられた。 「こちらはただ殴られっぱなしで、声を上げていない」。ワシントンでデモに参加した1人はNBCニュースにこう言った。「なんていうか、もっとひじ鉄をくらわせて押し返すべきだと思う。残念ながら、正攻法では通用しない」。 連邦政府の閉鎖が4週目に突入しようとする現状で、民主党はこれまでよりも対決姿勢を強めている。民主党は、年末に期限切れとなる低所得者向け健康保険補助金への対応を含めた超党派合意がない限り、現行の連邦支出の短期延長は承認しない構えだ。 上院の議事運営規則に基づき、民主党は少数派でも一定の権限を持つ。そして国民は少なくとも現時点では、与野党折衝が行き詰まっている責任のより多くは、トランプ氏と共和党にあると考えているようだ。 しかし、民主党のこの戦略にはリスクもある。政府閉鎖による痛みは、特に民主党の支持基盤にとって、何週間もたつにつれて深刻化する。 多くの連邦職員が給与を受け取れず、経済的に苦しんでいる。低所得者向けの食料支援の資金は枯渇する見通しだ。アメリカの司法制度は業務を縮小している。そして、トランプ政権はこの政府閉鎖を利用して、連邦職員をいっそう削減し、国内支出をさらに停止するよう命じている。その標的にされているのは、民主党が統治する州や都市だ。 現実問題として上院の民主党指導部は究極的に、この危機を打開する方法を見つけなくてはならない。しかし、18日のデモに参加した人たちが受け入れられるような合意内容に達するのは難しいかもしれない。 「こちらがトランプ大統領と合意して握手したとして、その翌週に彼が何千人もの職員を解雇し、経済開発プロジェクトを中止し、公衆衛生予算を打ち切るようなことになってほしくない」。民主党のティム・ケイン上院議員(ヴァージニア州選出)は19日、NBC番組「ミート・ザ・プレス」に出演してこう話した。「だから我々は、取引した合意内容は守るという確約を得ようとしている」。 11月初めには、一部の州で有権者が昨年11月の大統領選以来初めて、投票所に向かう。連邦政府の閉鎖はそれまで続いている可能性がある。 州知事や州議会の選挙は、「王はいらない」デモであらわになった反トランプ感情が果たして民主党の勝利につながるのか、効果のほどを計るバロメーターになるかもしれない。 ヴァージニア州は近年の大統領選では左寄りになっていたものの、4年前の知事選では共和党が勝った。このことが、当時のジョー・バイデン大統領に対する有権者の不満を早々にうかがわせる兆しとなった。 今回の同州知事選では、民主党候補のアビゲイル・スパンバーガー元下院議員が、共和党候補を世論調査でリードしている。 トランプ氏は昨年の大統領選でニュージャージー州では敗れたが、票差は6%ポイント未満だった。同州でバイデン氏が2020年に16%ポイント差で勝ち、2016年のヒラリー・クリントン氏は14%ポイント差で勝っているだけに、2024年のトランプ氏は同州での票差を大きく埋めたことになる。今年11月の同州知事選でも、接戦が予想されている。 ニュージャージー州モントクレアで行われた「王はいらない」集会では、民主党全国委員会のケン・マーティン委員長が参加者に、知事選への投票を呼びかけた。 「こういうデモに参加することも大事だが、実際に変化を起こして、権力を取り戻すことも大事だ」と、マーティン委員長は強調した。 トランプ氏への反感だけを理由に、左派の有権者が民主党候補を支持するようになるのか、今年11月の各地での選挙はその効果のほどを試すものになる。 ただし今年の選挙は、来年11月に控える中間選挙の前哨戦に過ぎない。中間選挙では、連邦議会両院をどの党が支配するのかが決まる。トランプ大統領の任期残り2年間を、民主党が実質的に牽制(けんせい)できるようになる可能性もある。 18日の抗議で何より優先されたのは、「トランプを止めろ」というメッセージで団結することだった。少なくとも現時点では、民主党が権力を取り戻した暁に何ができるのかは、それほど重視されていない。 とはいえ、党内の連携に亀裂が残るとうかがわせる材料もある。例えば、カマラ・ハリス前副大統領が今年9月に発表した新著のプロモーション・ツアーは、バイデン政権の中東政策に反対するパレスチナ支持者たちの抗議によって、たびたび妨害されている。経済問題に焦点を当て、トランスジェンダーの権利を含む社会政策は後回しにするという中道派の提案は、多くの左派から非難されている。 メイン、マサチューセッツ、カリフォルニア、ミシガンの各州では、来年の選挙に向けて民主党候補を決める予備選が激戦となる見込みだ。若手候補やリベラル派や中道派が、ベテラン政治家と対立することになるだろう。 こうした争いは、政治上の古傷を再び開くかもしれない。そういう古傷は、なかなか治らないものだ。そしてその場合、民主党の問題を解決するには、デモ行進だけでは足りないかもしれない。 (英語記事 After 'No Kings' protests, where does Democratic opposition go next? )