東京大医学部付属病院への寄付金と引き換えに医療機器選定で医療機器メーカーへの便宜を図ったとして、警視庁捜査2課は19日、東大医学部付属病院の准教授、松原全宏(たけひろ)容疑者(53)=東京都台東区上野桜木=を収賄容疑で逮捕した。また、東証プライム上場の医療機器メーカー「日本エム・ディ・エム」(新宿区)の元営業所長、鈴木崇之容疑者(41)=さいたま市浦和区=を贈賄容疑で逮捕した。 寄付金は東大病院の口座に振り込まれていたが、8割以上は松原容疑者が研究活動に自由に使える仕組みだった。警視庁は、金銭のやり取りを当事者間でなく大学を介した寄付にすることで、賄賂性を見えにくくする狙いがあったとみて調べている。 松原容疑者の逮捕容疑は、日本エム社が扱う機器を優先的に使う見返りとして、2021年9月と23年1月ごろの2回、東大病院名義の口座に40万円ずつ計80万円を振り込ませ、うち70万円近くを受け取ったとしている。国立大学法人が運営する東大の教職員は「みなし公務員」に当たる。警視庁は認否を明らかにしていない。 捜査関係者によると、松原容疑者は整形外科の医師として東大病院の救急チームで医療品の選定に関わり、医療機器を審査する委員会への申請権限や後輩医師が使う機器の決定権があった。実際、19年9月には日本エム社製品の使用を申請し、2カ月後に納入が決定されたという。 日本エム社側は20年3月~23年1月に3回、奨学寄付金として40万円ずつ計120万円を東大病院に振り込んでいた。いずれも自社製品を使ってもらう目的があったとみられるが、1回目の分は収賄罪の公訴時効(5年)が成立している。 寄付金は、大学側が一部を差し引いて残った8割を、宛先とされた医師個人が研究に自由に使える仕組みだった。松原容疑者は16~23年、日本エム社などからの寄付のうち300万円を受け取っていたという。うち少なくとも150万円を私用パソコンの購入など私的に使っていたとみられる。 松原容疑者は1997年に東大医学部を卒業。付属病院では20年近く勤務していた。 日本エム社は25年6月、長野県佐久市にある総合病院の医師2人に、医療機器選定での便宜を受ける見返りに現金を渡したとして、社員と元社員計3人が贈賄容疑で書類送検され、7月に在宅起訴された。この事件で日本エム社側は、架空の領収書を経費精算して賄賂の原資を捻出したとされる。【長屋美乃里】