【バンコク時事】「今でも悪夢にうなされる」―。 タイ東部チョンブリー県在住のソムさん(32、仮名)は、マッサージ師の求人を隠れみのにした強制売春の被害者の一人だ。ミャンマーに派遣されたが、実際には性的サービスを強要され、ちょうど3年前に逃げだして帰国した。「何も分からない恐怖と不安で食べることも眠ることもできなかった」と当時を思い返して声を詰まらせる。 当時29歳だったソムさんは、シングルマザーで一家の大黒柱。新型コロナウイルス感染拡大のあおりを受けて経済状況が悪化し、より高い賃金を求めてミャンマーに向かった。しかし、道中の車で実際には「直接的な性的サービス」をさせられることを知らされた。「既に半分まで来ており、引き返すことはできなかった」。身の危険を感じ、泣く泣く受け入れたという。 ミャンマー東部の中国国境の都市ラウカイに到着すると、そこには約10人のタイ人女性がいた。中国語で書かれた契約書に署名させられたが、内容は一切分からなかった。「中国人の男性が私たちを買いに来た。屈服するしかなかった。言われたことは全て同意した」。正体不明の飲むと気分が高揚する薬を渡され、「仕事」の際に服用するよう促されたという。 ホテルを転々と移動させられ、性的サービスを行った。ホテルの入り口には常時監視する人がいた。代金は売春組織側がすべて懐に入れ、ソムさんに分け前が渡されることは一度もなかった。 「もう耐えられない」。ソムさんは一緒に働いていた女性らと示し合わせ、脱出を決意。監視の隙を突いて決行した。しかし、パスポートを所持していなかったため、ミャンマー警察に逮捕され、約1カ月収監された。看守に借りた携帯電話で両親らに助けを求め、命からがら同国を後にした。 タイで犯罪被害者の女性らを支援する「パウィーナー・ホンサグン子供・女性財団」によると、女性が海外渡航後、要求金額を支払って解放されるケースもあるが、借用書に署名をさせて逃げられないようにすることが多いという。ミャンマーでは国軍と武装勢力の内戦が続いており、救出どころか、実態把握が難しい。