保釈認めない裁判所を批判、日弁連「根拠ない」 大川原化工機冤罪

「大川原化工機」(横浜市)をめぐる冤罪(えんざい)事件で、日本弁護士連合会は9日、逮捕された同社社長ら3人の身体拘束などに関する報告書をまとめた。報告書は、東京地裁の裁判官たちが具体的な根拠がないまま、3人による「証拠隠滅のおそれ」を理由に保釈を認めない判断を繰り返したと指摘。身体拘束への考え方を抜本的に見直すべきだと裁判所に求めた。 警視庁公安部は2020年3月、軍事転用可能な機器を無許可で輸出したとして、外国為替及び外国貿易法違反容疑で同社社長ら3人を逮捕し、東京地検が起訴した。3人は容疑を認めず、「証拠隠滅のおそれ」を理由に約11カ月間にわたり勾留された。勾留は容疑者や被告の身体を拘束する手続きで、検察が請求して裁判所が可否を判断する。 同社顧問だった男性は勾留中の同年10月、胃がんが判明。外部の病院に入院したが、保釈は認められないまま亡くなった。保釈請求は8回にわたった。初公判の直前の21年7月、地検は同社の機器が「輸出規制の対象にならない可能性がある」として起訴を取り消した。 ■「極めて抽象的」 日弁連の報告書によると、保釈請求の却下など身体拘束を認める判断に関わった東京地裁の裁判官は計28人。報告書は、逮捕前に2年以上も捜査がされ、社長らは延べ250回以上も事情聴取に応じ、証拠隠滅を疑う具体的な事情はなかったと指摘した。 それなのに、裁判官は3人の無罪主張など「極めて抽象的な事情」で証拠隠滅のおそれがあるとし、長期の身体拘束を続けたと批判した。こうした運用は定着しており、無罪だと主張するほど身体拘束が長引くとして「現在の実務から決別しなければならない」と強調した。 警視庁や警察庁、最高検は捜査の検証報告書を公表したが、裁判所は憲法の保障する「裁判官の独立」を理由に自らの対応を検証していない。 報告書はこの点について「事件を一つのきっかけとして、身体拘束の判断を省みて、改善するために内部で議論するのは裁判官の独立を侵すものではない」と主張。罪を認めないと身体拘束が長引く「人質司法」と批判される現状について、「裁判所が自ら検証を行い、結果を公表することが必要不可欠だ」と求めた。 ■警察や検察への指摘も また、報告書は警察の捜査について「組織としての成果への焦燥感が、冤罪を生み出す温床となると真正面から認識することが求められる」と指摘。警察の捜査をチェックする立場の検察には「警察の見立てに引っ張られず、独立した立場で情報を批判的に検討し、(見立てと異なる)消極証拠の証明力を十分に吟味し、必要な追加捜査を尽くす」ことを求めた。 同社社長らが起こした訴訟では、東京高裁が警察や検察の捜査を違法だったと認め、都と国に計約1億6600万円の賠償を命じた判決が確定している。(米田優人) ■■大川原化工機冤罪事件の身体拘束に関する東京地裁の判断 2020年3月13日 逮捕された社長ら3人の勾留決定 4月8日 1回目の保釈請求を却下 6月23日 2回目の保釈請求を却下 8月31日 3回目の保釈請求を却下 10月2日 入院を求める元顧問の保釈請求を却下 10月16日 元顧問の進行胃がんが判明 10月21日 元顧問の保釈請求を却下 11月5日 元顧問の勾留を停止、病院に入院 12月4日 社長らの保釈請求を却下 12月28日 社長らの保釈を許可 同日 検察の異議を認め、保釈許可を取り消し 21年2月4日 社長ら2人の保釈を許可 2月7日 元顧問が死去 7月30日 検察が起訴取り消しの申し立て

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