なぜ言葉で戦えなかったのか 湊かなえさんが小説「暁星」で綴った宗教2世の遠くない世界

作家の湊かなえさん(52)が、旧統一教会(現世界平和統一家庭連合)を巡り光が当てられた「宗教2世」などの問題をテーマにした小説『暁星(あけぼし)』(双葉社)を刊行した。「宗教の問題は全く遠い世界の話ではないと捉えてもらいたい」と語る湊さんに、物語に込めた思いを聞いた。 宗教団体の問題を取り上げた背景には、平成7年1月17日に起きた阪神・淡路大震災で、つらい思いをした知人の姿がある。知人が心が温まる本を探しに出かけた書店で、宗教団体の関係者に「お話ししませんか」と声をかけられ、施設に連れていかれた。 「私が大学生の頃は読書サークルなどと称して勧誘が盛んな時代でした。自分の人生にもそちらに続く分かれ道があり、誰にでも人生の近いところに平行な線が走っていて、そちらに行くか行かないかなのだろうと思った」 そうして筆を執って書き上げた『暁星』の主人公は、文部科学大臣が式典中に刺殺された事件を巡り、逮捕された37歳の永瀬暁(あかつき)。永瀬は週刊誌に手記を発表。そこには大臣と関係の深い新興宗教「世界博愛和光連合(愛光教会)」への恨みがつづられていて-。 永瀬の家族は父が自殺、弟は難病を患い、母は教団に入信して多額の献金を続けた。湊さんは「病気の子供の命が助かると言われて、多額のお金を差し出してしまうのは大きな問題」と提起しつつ、「もしかしてだまされているのかと疑っても、自分で打ち消してしまうのかもしれません」とも指摘する。 作中には永瀬と違い、親の影響で宗教団体に入信させられた「宗教2世」も描いた。「宗教を捨てることは親を裏切ることになる。宗教よりも血のつながりで余計に縛りつけられているのではないかと書きながら感じました」と湊さんは振り返る。 ■教義や儀式も構築 愛光教会には「成龍」「角龍」「応龍」へと信者の階級が上がるシステムがある。信者が病気の平癒や縁切りなどの願い事を紙に書いて消す「かきけし」という儀式など、湊さんが「自分で一から教団を立ち上げるつもりで教義や儀式を構築した」と語る教団の姿はリアリティーがある。 「日本画家の黒川雅子さんからお聞きした『応龍』の伝説がヒントになりました。龍が蛇のような姿から変化し名前が変わっていくそうで、これは教団の階級として表現できると思いました。人が全財産をなげうってでも、そこにすがろうとする。どんな儀式をしたら神秘的な力が宿っているように見えるのかと考えました」

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