10年前の2016年1月、違法薬物の所持で逮捕された元NHKアナウンサーの塚本堅一さん(47)。NHKを懲戒免職となった直後は、「今が人生の底だ」と、やり直しを決意し前を向いた。だが、見通しは甘く、本当の人生の底はその先にあった。もがき苦しんだ暗闇から、塚本さんはどう這い出したのか(全2回の2回目)。 * * * ■いつも泣いてしまう 取材を初めて1時間がたったころ。過去を振り返りながら思いを話していた塚本さんが、突然、声を詰まらせて涙をこぼした。 「この話をするときだけ、いつも泣いてしまうんです」 10年前に、「自分で転んでしまった」塚本さんの人生の苦しみが、その表情ににじむ。 NHKを懲戒免職となった塚本さん。今までと変わらず接してくれた友人もいたが、「前科者」から離れていく人もいる。 次の仕事を見つけようと、就職フェアに参加した。「放送の仕事をしていた」と面談で話すものの、具体的に何をしていたかは当然、尋ねられる。アナウンサーだったと話すと、その場では興味を持ってくれる。だが、ネットで「塚本堅一」の名前を検索すれば、逮捕歴がすぐにわかる。事件の顛末を記したまとめサイトもあった。 「企業に何度応募しても、落ち続けて…。少しずつ、心が折れていきました」 ■デマに抗弁する気力もなかった 消すことのできない前科。どうせ自分なんか、という否定的な感情からも、ずっと逃れられなかった。 報道被害も受けた。民放のあるワイドショーの出演者が、「今後予想される薬物で怪しい人物」として、「薬物で逮捕されたアナウンサーが覚醒剤に手を出した」と話した。塚本さんの名前は出していないが、簡単に推認できる内容だった。その発言がネットで記事になっていたのを、偶然目にした。友人からも知らされた。人権侵害と言っていい、明らかなデマ。だが、抗弁する気力もなかった。 「私は東京に来てたった一年で、決して有名なアナウンサーではありませんでした。なのに、いつまで(前科が)ついて回るのか。なぜ、勝手にこんなことまで言われないといけないのか」 もともと、人に頼らずに抱え込んでしまう性格だ。家族にも友人にも、そんな苦しみを打ち明けることはできなかった。 気が付けばうつ状態になり、どんどん悪化していった。夜は眠れない。人目が怖くなって電車にも乗れず、スーパーや飲食店にも入れない。 薬物関連の報道や、関連する言葉を見るだけで、激しい動悸に襲われた。この世の中から消えてしまいたい。そんな思いに駆られるようになった。