「いま、英国は王室と政府が『両方ヤバい』 刺さったパブ店主の一言」ブレイディみかこ

英国在住の作家・コラムニストのブレイディみかこさんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、生活者の視点から切り込みます。 * * * 「これまでなら、英政府が不人気の時は王室が安泰だった。王室の人気が落ちた時は、政府が強力だった。今回みたいに両方同時にヤバいのは初めて」 近所のパブの店主がしみじみそう言っていたが、英国社会は今、「エプスタイン階級」(世界を動かしてきた特権階級を指す新語)のダブル危機を目撃している。 英国ではアンドリュー元王子や与党の重鎮が逮捕され、この階級は法の外にあるわけではないということを内外に示した。米国と比較すると、英国はまだまともという論調がある一方、王室にも政府にも、早急にそうせざるを得ない事情があった。 支持が高かったエリザベス女王が亡くなった時、王室制度の崩壊を予見する人々もいた。国立社会研究センターによれば、1983年には86%の人々が王室存続を望んでいたが、2024年には51%に。特に若年層では59%が王室廃止に好意的という調査結果も出た。王室メンバーでは、ウィリアム皇太子とキャサリン妃だけが70%を超える高い好感度を誇り(YouGov調査)、アンドリュー元王子の疑惑について夫妻が異例の声明を出したのも、ダメージ軽減のためだった。とはいえ、アンドリュー元王子の「マッサージサービス」費が国庫から出ていた疑惑なども浮上し、亡くなった女王や現国王も多少は知っていたのではないか、早く次の世代に王位を譲るべきという声が日に日に強くなっている。 一方、ブレア派が支配してきた労働党政権は、そのブレア派の中からエプスタインがらみの醜聞が発覚したため、政府への信頼が地に落ちた。首相交代を求める声が高まっても身動きできないのは、党内左派を徹底的にパージしてきたせいで、ブレア派がこけたら、誰が後に残るの?というぐらい然るべき党首候補がいないからだ。ある程度の多様性を担保しなかった組織の典型的失敗例を見ているようであり、支持率最低でもスターマーが退任できないのは後継者がいないからだとすれば、こちらの危機は王室より深刻だ。 ともあれ、エプスタイン階級に対する人々の怒りは増すばかりである。その矛先に王室が含まれている以上、極右はその真の受け皿にはなれないだろう。 ※AERA 2026年3月9日号

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