エマニュエル・トッドが語る「西洋ニヒリズム」の根深さ トランプはアメリカ社会そのものの鏡なのか?

問題はトランプ個人の人格ではなく、彼の振る舞いを許してしまうアメリカ社会そのものにある――。フランスの歴史家エマニュエル・トッド氏は、道徳的価値観の崩壊した社会が背徳的な政治を解き放つという、深刻な診断を下します。トッド氏はトランプの外交姿勢とヒトラーの外交を比較しながら、「悪をなすことに喜びを感じる指導者」を生み出したアメリカ社会のニヒリズムの深さを語ります。同志社大学大学院教授の三牧聖子氏は、ロシアへの憧れを示すトランプに民主主義の危機を重ね、鋭く応じます。元エルサレム支局員の朝日新聞記者・高久潤氏との鼎談から、その核心に迫ります。最新刊『2030 来たるべき世界』から一部を抜粋・再編集してお届けします。 * * * ■トランプという「悪」と道徳的価値観の崩壊がアメリカに解き放ったもの 高久 「トランプという人物をどう理解すべきか」という問題は、やはり避けて通れません。 私たちは日頃、彼の発言を追いかけながら、「あるときはこう言い、あるときはまったく違うことを言う」という、振る舞いに翻弄されています。 そこで伺いたいのは、トッドさんから見て、1期目のトランプと、2期目のトランプは変わっているのか。そしてもう一つ、トランプという人物を、「西洋の敗北」という大きな文脈の中で、どのように理解すべきなのか。この点について、お考えをお聞かせいただければと思います。 トッド それにお答えするには、まずは、アメリカ社会の問題から始めなければなりません。 つまりアメリカ社会の道徳的価値観の崩壊ということから考えましょう。私は、アメリカ社会がトランプの振る舞いに抵抗する力を失いつつあると思います。だから、社会学的、歴史学的に見て、何かが起きた。そして、それがトランプという人物の人格を解き放ってしまった。 ここで申し上げるのは、論証できることではありません。 ただ、彼を見ていて、感じることがあるのです。つまり、彼は悪をなすのに喜びを抱くタイプの人間ではないかということです。嘘をつく快感、人を殺害させることにさえ快感を得ているかもしれない。言っていることが、過激だと思われるかもしれないのはわかっています。でもやっぱり感じてしまうのです。 以前、放送番組の中で、細かな違いがあることは承知しつつ、外交についてのドナルド・トランプとヒトラーを比較したことがあります。 外交以外も同じだと言っているわけではないですが、ナチスの連中も、悪は善であり、善とは悪のことだ、と言っていたのです。これもまたニヒリズムの一つの形です。それについては、ドイツの政治家ヘルマン・ラウシュニングが書いた『ニヒリズムの革命』という大変興味深い本があります。 で、ヒトラーの外交にも、たとえば締結した条約を反故にする快感が見られるのです。嘘をつくことと殺害することの快感。それをトランプにも感じてしまう。実際、みんな恐れおののいて立ちすくんでいます。 だって、この先、そんなに長く続かないにしても、依然としてアメリカは強国ではあるのですから。で、ちょっと考えればわかることですが、その世界最大の大国の指導者は、要するに背徳者なのです。ただ、あまりに恐ろしいので、この現実を認めようとしない空気もあります。

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