米司法省、キューバのカストロ元議長を殺人罪で起訴 1996年の航空機撃墜事件めぐり

アメリカは20日、南部フロリダ州とキューバの間を飛行していた航空機2機が撃墜された1996年の事件をめぐり、当時キューバの最高指導者だったラウル・カストロ元国家評議会議長(94)を、アメリカ人殺害共謀などの罪で起訴したと発表した。 この事件では、キューバ系アメリカ人の団体「ブラザーズ・トゥ・ザ・レスキュー」の航空機が撃墜され、アメリカ人3人を含む4人が殺害された。 米当局は今回、カストロ氏ら計6人を起訴した。 当時、カストロ氏は軍の最高司令官だった。撃墜をめぐっては国際的に非難された。 アメリカはこのところ、キューバの共産主義政権に対する圧力を強めようとしている。 キューバのミゲル・ディアス=カネル大統領は、今回の起訴を「一切の法的根拠を欠いた政治的策略」だと非難した。 カストロ氏は、キューバの最高指導者だった故フィデル・カストロ元国家評議会議長の弟。すでに政府や党の実務からは退いているが、高齢の今も影響力を保っており、国内では生きた「キューバ革命の指導者」として広く認められている。国家評議会議長だった2008〜2018年には、アメリカのバラク・オバマ大統領(当時)と両国関係の融和を主導した。ただ、そうした関係は長続きしなかった。 アメリカのドナルド・トランプ大統領はこの日、起訴の政治的側面について質問されると、「私はキューバ系アメリカ人とは非常に良好な関係を築いてきた。その意味で、私と縁のある人々も大勢いる」、「人道的な観点から、支援するために私たちはここにいる」と述べた。 ■身柄確保の試みについては明言せず 起訴については、米司法省のトッド・ブランチ長官代行がこの日、フロリダ州マイアミのフリーダム・タワーで発表した。 カストロ氏については、航空機破壊の罪と、アルマンド・アレハンドレ・ジュニア、カルロス・アルベルト・コスタ、マリオ・マヌエル・デ・ラ・ペニャ、パブロ・モラレスの各氏に対する計4件の殺人罪で起訴すると説明。 「アメリカ、そして(ドナルド・)トランプ大統領は、自国民を決して忘れておらず、今後も忘れない」とブランチ氏は述べた。 記者団から、カストロ氏をアメリカに連行して裁判にかける見通しについて問われると、ブランチ氏は、カストロ氏には逮捕状が出ていると返答。身柄を確保しようとするのかは明言しなかったが、「彼が自らの意思で、あるいは別の方法で、ここに来ることになると我々は考えている」と述べた。 この日の起訴内容は今後、米連邦裁判所で審理される。個々の殺人罪の最高刑はそれぞれ、死刑または終身刑。 アメリカは、一党独裁体制が続くキューバに対し、政治と経済での大幅な改革を強く迫っている。今回の起訴は、そうした状況で、キューバ共産党指導部の主要人物を標的にした。 ラテンアメリカ政治に詳しいアメリカン大学のウィリアム・レオグランデ氏は、「キューバ政府が折れて交渉の場で譲歩するまで、圧力を徐々に強めていく戦略だと思う」と分析。アメリカは、「キューバ側が交渉の場で降伏しなければ」カストロ氏を拘束するつもりだろうと述べた。 アメリカは今年1月、司法省がヴェネズエラのニコラス・マドゥロ大統領(当時)を起訴したことを受け、マドゥロ氏を拘束してアメリカに連行する軍事作戦を実施した。 このことで、ヴェネズエラの対米関係は一変した。ただ、キューバのカストロ氏をめぐっては、同氏が10年近く前に引退していることから、同国で同様の効果が生じる可能性は低いと、アメリカン大学のレオグランデ氏は指摘した。 米司法省のブランチ長官代行は、カストロ氏とマドゥロ氏の「事例を比較するつもりはない」と述べた。 ■軍事侵攻の正当化に利用と非難 アメリカはキューバに制裁を発動しており、同国への石油の輸出を禁じている。その結果、キューバでは停電や食料不足が発生している。 アメリカのマルコ・ルビオ国務長官は20日、キューバの独立記念日に合わせ、同国民に向けたメッセージを発表。「トランプ大統領が、アメリカと新たなキューバとの間の新しい道筋を示している」とした。 ルビオ氏はまた、キューバで続く停電や食料不足について、キューバ軍運営の複合企業体「GAESA」が主な原因だと主張した。GAESAは、港湾、ガソリンスタンド、五つ星ホテルなど、収益性の高い経済分野の大部分を所有または運営している。 ルビオ氏のメッセージに対し、キューバのディアス=カネル大統領は、アメリカがうそをつき、キューバ国民に集団的懲罰を科していると非難した。 同大統領はまた、カストロ氏に対する起訴が「キューバに対する軍事侵攻という愚行を正当化するために利用されている」と主張。航空機撃墜をめぐる事実をアメリカがねじ曲げていると非難した。 そして、キューバの当時の行動は「自国の管轄水域内での正当な自衛行為」だったとした。 ■「キューバが戦わずに屈服する可能性は低い」 起訴が発表されたマイアミの会場には、キューバ系アメリカ人が詰めかけた。その多くは、数十年にわたってキューバ政府への反対運動をアメリカで主導してきた、亡命キューバ人組織の関係者らだった。 その人々は口々に、今回の起訴に興奮していると、撃墜事件で死亡した4人の写真に囲まれながら話した。 イセラ・フィテレ氏は、「67年間も続いたあの人殺し政権に、その時が来た」と述べた。「ラウル・カストロは単に4人を殺しただけではない。長年にわたり、数え切れないほどの人を殺してきた」。 フィテレ氏はまた、正義の実現に遅すぎるということはなく、今回の措置を取ったトランプ政権に感謝しているとした。 メルセデス・プイド=ソト氏も同調し、「とてもうれしい。正義が果たされた」と述べた。「遺族が区切りをつけられるのはとても大事だ。私たちキューバ人にとってもそうだ」。 米シンクタンク「外交問題評議会(CFR)」国際問題フェローのロクサーナ・ヴィジル氏は、今回の起訴をめぐっては、「トランプ政権が果たして、マドゥロに対する起訴を利用したのと同じように、この起訴を根拠にして、法執行活動を装った軍事作戦を正当化するのかどうか」が懸案だと指摘した。 「キューバ政権が戦わずにアメリカに屈服する可能性は低い」一方、「アメリカ国内のキューバ系移民にとって、キューバ政権との協力を含む対応はどのようなものでも、受け入れにくいはずだ」とも、ヴィジル氏は指摘した。 ラウル・カストロ氏の孫のラウル・ギジェルモ・ロドリゲス・カストロ氏らキューバの代表者は、ここ数カ月、アメリカ側と「会話」を重ねてきた。しかし、今回の起訴によって、こうしたやりとりが円滑になる可能性は低い。 それどころか、キューバ側はアメリカの圧力に対し、「屈服も譲歩もしない」という姿勢をさらに強固にする兆しを見せている。キューバ国営メディアは、今回のアメリカの措置を「虚偽の起訴」だと激しく非難している。 (英語記事 US charges Cuba's Raúl Castro with murder over 1996 downing of two planes)

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