【佐賀】九州唯一の女性刑務所、受刑者癒やす“クラブ活動” 「息を止めるぐらい集中」…切なそうな表情も

警察・司法担当記者として日々の事件事故や裁判を取材する。しかし、逮捕、裁判を経て刑が確定した人の「その後」を知る機会はめったにない。そんな中で4月18日、九州唯一の女性収容施設「麓刑務所」(佐賀県鳥栖市山浦町)で受刑者のクラブ活動を取材した。更生に向けた日々を送る彼女たちの余暇の時間は、受刑者に癒やしになると同時に、更生への一助にもつながる貴重な機会。その活動の様子や意義を関係者に聞いた。 麓刑務所には窃盗、覚醒剤取締法違反、殺人などの罪を犯した185人(4月18日時点)が服役する。受刑者は、刑務所職員制服の縫製、久留米絣(かすり)などの伝統工芸品を使った製品作りといった刑務作業のほか、炊事や掃除の自営作業にあたる。 作業に励む彼女たちの「癒やしの時間」がクラブ活動だ。同所では書道、コーラス、生け花などの7クラブが月に1、2回活動する。その一つ、美術クラブには6人が所属。外部講師の橋本明子さん(67)の指導で、水彩画や絵はがきを作る。各クラブが日頃の活動成果を披露する毎年11月の「きぼう祭」では昨年、五輪開催地・パリのエッフェル塔やルーブル美術館を描いた力作が並んだ。 この日はフランスの現代美術家ダビッド・メスギッシュさん(45)が本人たっての希望で来所し、特別教室を開いた。「空間と人間の関係」を活動テーマとするダビッドさんは普段、少女や顔の巨大な彫刻を作り、街中や建物に設置している。スマートフォンで撮影した顔写真から、3Dスキャン技術を使ってコンピューター上で立体的に再現する方法を実演。並行して、受刑者たちに今どんな風景を見に行きたいか、自分の顔の像を置きたい場所を描かせた。 60代の受刑者は「自分の好きな場所」と横浜市の赤レンガ倉庫を選んだ。「今の自分が見に行けない分、(作品が代わりに)景色を堪能してほしい」。大自然に癒やされてほしい、走るバスから紅葉を眺めたい…。6人は約1時間かけて、故郷の自然や家族との思い出の場所を思い思いに画用紙に向かって色鉛筆で描いた。 「美術の世界に触れるのは楽しい。すごく元気をもらえた」。2時間の活動を終え、40代の受刑者は目を輝かせた。橋本さんも「好きなことに熱中するってすてき。息を止めるぐらい集中してたなんて人もいる」とほほえむ。所内では、作業の忙しさや人間関係に悩み、自分を見失いそうになる-。クラブ活動は、そんな彼女たちがリフレッシュし、明日からの活力を得る時間になっている。 クラブ活動は更生への足掛かりでもある。同所の主任矯正処遇官の木下明子さん(53)によると、日常生活のストレスなどから罪を犯してしまった受刑者も多い。「新しいことに取り組み、発見や喜びを得る。社会生活に楽しいことがあると気づいてほしい」と願いを込める。また、彼女たちの中には学校に通えなかった人もいて、外部講師の存在は、刑期を終えた受刑者が新たな“先生”と出会う機会にもつながるという。 活動の最中、彼女たちがわずかに見せた切なそうな表情が心に残った。刑務所にいる今は見られない景色、会えない家族を思い出していたのだろうか。筆を走らせる受刑者たちを見つめ、木下さんは「クラブ活動で見つけた趣味が犯罪から遠ざかる一端になれば」。画用紙に描いた場所を、彼女たちがもう一度訪れることができる日を願っている。(杉野如海)

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