ドゥテルテ前大統領が3月11日にマニラの空港でフィリピンの警察によって逮捕された。ドゥテルテ氏は大統領在任中、国内の麻薬組織を壊滅するために強烈な取り締まりを実施。6000人超と言われる膨大な数の死者を出した。その件で、国際刑事裁判所(ICC)が逮捕状を出しており、フィリピンの(現)マルコス政権が国際刑事裁判所に協力する形で、ドゥテルテ氏を逮捕して身柄を引き渡した。 ロシアのプーチン大統領やイスラエルのネタニヤフ首相など、国際刑事裁判所が逮捕状を出している他の首脳たちにも同じことは起こり得るのか。この問題に詳しいオーストラリア国立大学国際法教授のドナルド・ロスウェル氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト) ──ドゥテルテ前大統領が逮捕されました。なぜこのタイミングで逮捕されたのでしょうか? ドナルド・ロスウェル氏(以下、ロスウェル):国際刑事裁判所は本件を2012年から2019年まで捜査しており、この間のドゥテルテ前大統領の行いが捜査の対象でした。彼は大統領職を終えていますし、マルコス政権は国際刑事裁判所の判決に同意した上で、ドゥテルテ氏を逮捕して引き渡しました。 注目すべき点は、ドゥテルテ氏の大統領任期中には逮捕しなかったということです。そして驚くべきことに、彼は自国のフィリピンで逮捕されました。 フィリピンは国際刑事裁判所に関するローマ規程(※)のメンバー国ではありません(フィリピンは2018年に脱退している)。国際刑事裁判所の判決や要請に従う義務があるわけではないのに、フィリピンは協力したということです。 マルコス政権はドゥテルテ氏が香港からマニラに帰国したところを逮捕しました。オランダのハーグに身柄を移送された彼は、裁判を待っています。今回の逮捕は、ローマ規程から抜けたフィリピンが国際刑事裁判所に協力したという点で異例のことです。 ※ローマ規程:国際刑事裁判所の管轄犯罪や手続きを規定する国際条約。「ICC条約」や「ICC規程」などとも呼ばれる。 ──有罪が確定した場合、ドゥテルテ前大統領はどこに収監されるのでしょうか? ロスウェル:国際刑事裁判所が有罪と言い渡したケースは、これまでそう数が多くはないので、判決後の行き先に関してはやや不透明です。国際刑事裁判所は、本拠地オランダを含め、複数の国に国際犯罪者の収監場所を持っています。 もしフィリピン政府がこのまま国際刑事裁判所と協力を続ける場合は、フィリピン国内の刑務所に収監される可能性もあると思います。 ──2024年11月、国際刑事裁判所は、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相とヨアブ・ガラント元国防相に加え、ハマス指導者モハメド・デイフ(10月7日の越境奇襲攻撃の首謀者の一人)に対して逮捕状を発行しました。将来的にどんな展開があり得ると想像されますか?