松本清張の名作に挑む――生田絵梨花「天城越え」で見せた新境地

NHK BSで6月14日に放送する、特集ドラマ「天城越え」(午後9:00)の取材会が行われ、本格的な時代劇は初挑戦となる主演の生田絵梨花が登壇した。 本作は、作家松本清張の不朽の名作であり、これまでも映像化によって数々のスターを生み出してきた。主人公の大塚ハナは、波乱に満ちた過去を背負う、伊豆・修善寺の遊女。天城峠を越える途中に出会った家出少年の純粋さに心を動かされるも、殺人容疑で逮捕され、無実を訴え続けるという難役に生田が挑む。 ――原作を読んだ印象を教えてください。 「サスペンスの要素はありつつも、人間の美しい部分と、そして泥臭い部分が両方描かれていることが、すごく印象的でした。私も客観的に今回の完成した作品を見ながら、ハナも対峙(たいじ)している相手やシーンによって、見せている顔は全然違うなと思って…。演じている時から思っていたのですが、自分で故意にやろうとしているというよりも、シチュエーションや環境がそうさせることがすごく多かったので、それはこの作品の力だなと感じました」 ――今回、時代劇初挑戦とのことですが、制作陣とどのような話し合いをして、役作りをしましたか? 「当時の遊女について、知らない部分があったので、いろいろと調べて、台本に描かれていることの背景をたくさん質問させていただいたり、どう見えているかを監督さんに都度見ていただき、意見をもらって、一緒に話し合いながら作っていきました。今回、“記憶”というテーマを大事にしたいと伺っていた通り、作中で自分の目で見たもの、香り、耳で聞いたもののように情報で表せない記憶が大切に描かれています。当時は現代のようにスマホなどで記録することができない分、私も神経や五感を研ぎ澄ませながら撮影をしていました」 ――ハナという人物のどの部分に一番共感しましたか。 「当時は相当過酷な環境や時代だったので、完全に共感するのはすごく難しかったのですが、例えば自分がどんなにくすぶっていたり、がんじがらめになっていたりしても、小さな子どもや動物、生き物と接すると、自分のピュアな部分が出てきたり、守らなきゃという思いが生まれる部分が、ハナと通じるところがあるのかなと思って…。ハナも過酷な状況下で生きてきましたが、少年と接している時だけはありたい自分でいられたのかなと。少年の自由な未来を奪っちゃいけないという思いがすごく強かったのではと想像し、すごく共感しました」 ――過去の「天城越え」も全てご覧になったそうですが、参考にされた方はいましたか。 「(1998年放送の主演)田中美佐子さんは以前ドラマで共演させていただいて、お母さん役ですごく優しくて朗らかで、その時の役も、実際の美佐子さん自身もそういう印象だったのですが、美佐子さんの演じたハナを見たらすごく荒々しくて、運命に必死にあらがおうとするけど、それがかなわないむなしさや切なさも感じて。そういう部分は改めて見てすごいなと尊敬を抱きました。なので自分もハナのいろんな面を出せるように、誰が見るかによってハナの印象が違ったり、どの瞬間を切り取るかによって見え方が違ったり、“こういう人物”と限定的にしてしまわないようにしていました」 ――ハナを演じて一番難しかったところを教えてください。 「撮影前に1番心配だったのは、荒々しい部分を実生活であそこまで出すことがないので、お芝居とはいえ、雑に扱われたり、きついまなざしを向けられたりして、そこで自然に食らい付いていけるのかということでした。ハナの荒々しさを自分の中から出してもらえたのかな」 ――妖艶さが印象的でしたが、意識されたところはありましたか。 「妖艶さや遊女としての色っぽい面をどう表現するかも大きな課題だったのですが、所作指導の先生に、どう動いたら色っぽく見えるのか、どういうしぐさが効いてくるのかなどを教えていただいて、それを実践したり、話し方があまり軽くならないように、落ち着いたトーンやスピード感、深みの発声を意識していました」 ――(刑事の田島貞藏を演じる)岸谷五朗さんとの取り調べのシーンが印象的でした。 「あのシーンは2日にわたって撮影したのですが、本当に閉鎖的な空間で、お芝居といえども、罵声を浴びたり、お互い視線を向け合ったりして、私も神経が擦り減るようなしんどい中で、なんとか持ちこたえるギリギリの状態で撮影していまして…。そこはハナの心情とも重なって、一緒に踏ん張りながらなんとか撮影していった記憶があります」 ――岸谷さんとは何か話し合いましたか? 「岸谷さんとは撮影に入ったらもう、グッとにらみ合わなきゃいけないのですが、裏では『こう動いた方がリアクションがしやすいのではないか』と考えてくれたり、すごく優しく寄り添ってくださったので、とても心強かったです。岸谷さんと再会するのは10年ぶりで、前回は親子として共演し、今回は遊女と刑事という関係性でした。取り調べ室のシーンが終わった後、クランクアップだったのですが、その時に『前回とは全く別人だった』と言っていただけたのがすごくうれしかったです」 ――若村麻由美さんが31年後のハナを演じられましたね。 「若村さんとは、実は一度もお会いしていなくて、直接お話していないのですが、映像を見た時に、画面越しにパッと伝わってきて、『わっ、ハナだ』と。すごく鳥肌が立つような感覚があって。直接言葉にはしないですけど、何か分かっているような目線や、伝わってくる喜びみたいなものがあって、『ご一緒してないのに、なんでこんなにつながっているのだろう』と感動していました」 ――実際、天城トンネルで撮影されていかがでしたか? 「子どもみたいな感想ですが、『本物だ』って。実際にトンネルにずっと残っていることってないことですよね。あの時代から毎回あそこで撮影もされていて、時を経ても同じ場所なんだっていうところは、バトンを受け継いでいるような、そんな気持ちになりました。作品の中でも象徴的な場所なので、実際に訪ねて撮影ができたのは、ハナにグッと距離が近づけた瞬間でした」 ――最後に、視聴者へのメッセージをお願いします。 「今の時代では生き方や働き方にいろんな選択肢があり、また守られる時代だと思うのですが、ハナの時代は、生まれた家や環境で運命が決められてしまう。自由を求められない。そういう人の人生を今見ることによって何か心に刺さるものがあるのではないかなと思いますし、どう生きていくかということを改めて考えていただけるのではないかなと思っております。それでも、あまり難しく考え過ぎずに、この作品を楽しんで見ていただきたいです」 【番組情報】 特集ドラマ「天城越え」 NHK BS 6月14日 午後9:00〜10:29

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