「突然、玄関のドアをドンドンたたきながら、『助けて! 警察呼んで』という悲鳴が聞こえました。夫が出ると、そこには頭がパックリ割れ、血をポタポタと流しているBさんがいたんです。Bさんから流れる血で、私の家の玄関先も、もう血まみれになっていました」 被害者が助けを求めた家の住人は、事件のあった日のことをこのように振り返った。 8月2日、警視庁捜査1課は住居侵入と殺人未遂の疑いで、職業不詳の出倉恵人(でぐら・けいと)容疑者(21)を逮捕した。出倉容疑者は江戸川区の住宅に侵入し、70代女性のAさんと50代女性のBさんをハンマーのようなもので複数回殴り、殺害しようとした疑い。AさんもBさんも、頭蓋骨骨折などの重傷。出倉容疑者は現場から徒歩で逃走したが、防犯カメラ捜査によって、逮捕に至ったという。 「事件が起きたとき、現場には20代女性のCさんもいましたが、ケガなどはありませんでした。Cさんにとって祖母であるAさんと、叔母にあたるBさんは、たまたまこの家を訪れていたところ、事件に巻き込まれたということです」(全国紙社会部記者) 江戸川区の閑静な住宅街で惨劇が起きたのは7月30日。まだ日の明るい夕方5時半ごろのことだった。 前出の近所の住人が続ける。 「あちらの(事件が起きた)お宅は、普段はCちゃんとそのご両親、年の離れたCちゃんの妹の4人で生活していました。お母さんと妹さんはちょうど買い物に行っていて、事件が起きた5分ぐらい後に帰ってきたんです。もう少し帰るのが早かったら、事件に巻き込まれていたかもしれません。妹さんは、『家の中が血だらけで怖い』と私の家の中でブルブルと震えていました」 同じく近所に住む50代の男性は、事件当日のことを次のように語った。 「ドンドンという音と『助けて』という声が聞こえた。外に出たら、パトカーが4~5台に救急車も止まっていたので驚きました。悲鳴を聞いて、何人かの人が110番したということです。Aさんは担架の上で応急処置を受けていましたが、Bさんは座り込んで、救急隊員など4~5人の人と話をしていました」 近所に住む50代女性は事件当日、Bさんから、このように事件のことを聞いたと話してくれた。 ◆2階で寝ていた20代女性は… 「インターホンが鳴って、おばあちゃん(Aさん)が『どなたですか?』と尋ねると、犯人は『Cちゃんの友達です』と答えたそうです。それで玄関のドアを開けたら、いきなりハンマーで殴られた。Aさんはギャーッと悲鳴を上げながらも、『C、警察を呼んで』と叫んだといいます。 Cちゃんはその日、具合が悪くて2階で寝ていたんですが、悲鳴を聞いてすぐに隠れたそうです。ちょうどシロアリ駆除の消毒をしたばかりで、タンスなどの家具をいろいろ動かしていたのでそこに隠れたと聞きました。Cちゃんが隠れてすぐ、犯人が2階に上がってきたのですが、家具が散乱した部屋を見て、すぐ下に向かったということです」 再び1階に下りた出倉容疑者は居間にいたBさんをハンマーで殴り、「携帯電話とクレジットカードの暗証番号を教えろ」と言ったという。Cさんの名前を口にして住宅内に侵入した出倉容疑者について、Cさんは警察に「小中学校は同じだが、面識はない」と述べている。 また、現場付近では、以前からたびたび不審者の姿が目撃されていた。近所に住む女性は昨年12月にも事件現場となった住宅で不審者を見たという。 ◆1年前にも目撃されていた不審な行動 「昨年12月15日のことですが、たまたま夜中2時ごろに目が覚めて、何気なく外を見ました。そうしたら、あのお宅の敷地内に入ってドアポストから中をのぞいている不審者がいたんです。不審者はそのまま敷地内を裏のほうに回っていきました。すぐに、警察に電話したのですが、警官が自転車で駆け付けたときには、不審者は逃げたあとでした」 もちろん、その不審者が出倉容疑者かどうかはわからない。しかし、「もしあれが同じ犯人だったら、Cちゃんを狙っていたのかも」とその女性は回想する。 一方、「知り合いが、以前、あいつ(出倉容疑者)に家に入られそうになった」という証言もあった。証言してくれたのは60代の男性だ。 「1年ほど前らしいですが、知り合いの男性が朝、車で家を出ようとすると、家の前に見たことがない若い男が立っていたというんです。そのまま家を出たものの、やはり気になって戻ってみると、その男が玄関のところで何かをしていたので、すぐに捕まえようとしたそうです。 しかし、『何やってるんだ!』と揉み合いになった後、その男は知り合いを突き飛ばして逃げていったといいます。今回の事件の報道で、犯人の顔をテレビで見て、その知り合いが『こいつだ。この顔は見間違えるはずがない』と話していました」 出倉容疑者は、被害に遭った住宅から約300m、歩いて10分もかからないところに住んでいた。容疑者宅の近所に住む女性は「小さい頃には見たことがあるけど、最近はまったく見ていない」と話していた。 「出倉容疑者は『まったく身に覚えがない』と容疑を否認しているということです。一方、警視庁は出倉容疑者の自宅から、自殺をほのめかすようなメモを押収。自暴自棄になって犯行に及んだ可能性もあるとみて捜査しています」(前出・社会部記者) 自暴自棄になって犯行に及んだとして、なぜハンマーで人を襲おうと考え、実行してしまったのか。 今後の捜査のなかで明らかになるのだろうか。 取材・文:中平良