【プレイバック’15】「川崎老人ホーム連続殺人」〝すべてを知る男〟が本誌直撃に語った「不安」

10年前、20年前、30年前に『FRIDAY』は何を報じていたのか。当時話題になったトピックを今ふたたびふり返る【プレイバック・フライデー】。今回は10年前の’15年9月25日号掲載の『川崎老人ホーム3人連続転落死 すべての夜を知る男』を紹介する。 ’14月から12月にかけて、川崎市の老人ホームで3人の入居者が続けて転落死する事件が起きた。当初、警察は変死として処理をしていたが、’15年になって神奈川県警捜査1課が本格的に捜査に乗り出していた。注目されたのは3人が亡くなったすべての夜に当直していた唯一の人物・A。そして同施設では窃盗や虐待などの問題が多発していたことも明らかになった(年齢・肩書はすべて当時のもの。《》内の記述は過去記事より引用)。 ◆老人3人が次々と謎の転落死を遂げた 《「なんですか? 時間がないんですよ。5時半から歯医者なので」 すべてを知っている可能性のあるAは、本誌の直撃取材にも驚いた様子を見せず、落ち着いて対応した》 神奈川県川崎市の老人ホームで最初の転落死事故が起きたのは、’14年11月4日のことだった。男性入居者(当時87)が4階のベランダから落ちて死亡。その後の12月9日と31日にも、当時86歳と96歳の女性入居者が相次いで4階と6階のベランダから転落して亡くなった。いずれも午前1時半から午前4時という深夜の出来事だった。 遺書はなく、誤って落ちたとも考えられたが、ベランダにはいずれも高さ120㎝の柵が設けられていた。はたして高齢で介護が必要だった彼らが、自力で柵を乗り越えられるのかという疑問はぬぐえなかった。しかも、2人の女性は身長150~155㎝と小柄で、歩行がままならない人もいたのだ。それでも、老人ホームの管理責任者は会見で、「事故だった」と説明していた。 このホームでは夜間は3人の職員が当直をつとめていた。入居者たちが転落した11月4日、12月9日、同31日のすべての夜に当直を担当していたのが、’14年5月からこの施設に勤務していたAだったのだ。本誌記者とAとのやり取りに戻ろう。 《――老人が転落したときの状況は? 「今はお話しできない。私の判断だけではそういう話できないんですよ」 ――誰かの関与も疑われています。 「関与がどういう意味かわからない。ただ、私が当直していたのは事実です」 ――報道を見てどんな気持ちか。 「不安な気持ちがあります」 ――不安とは何ですか? 「自分が疑われているのではないか……という不安です」》 ◆「死んじゃうよ」とこぼす入居者 この老人ホームは鉄筋6階建てで80ある部屋はすべて個室。入居料は月額22万円という高級老人ホームだった。だが、ここでは’14年の連続転落死の前後に、さまざまなトラブルが発覚していた。 ’14年3月には男性入居者(当時83)が浴槽内で死亡する事故が発生。’15年5月には前出のAが、1月から4月にかけて施設入居者3名から現金合計11万6000円と、指輪等4点を盗んだとして、神奈川県警に逮捕され、施設を懲戒解雇されている。 さらに5月7日には認知症を患っていた女性入居者(85)に対して、Aとは別の男性職員4人が、「死ねや!」などの暴言を吐き、虐待行為を日常的に働いていたことが、女性の家族の訴えで発覚した。女性の家族は次のように本誌に語っていた。 《「ある日、母が私に『男の人に打たれた』と言ったんです。そこで施設に苦情を申し入れたのですが、取り合ってもらえない。それで証拠を残そうと考え、部屋に録音機を隠して音を録りました。すると、そこには職員の暴言などが入っていたんです。警察と市役所に相談したところ、『映像もあれば』と助言されたので、今度はカメラを仕掛けました。短期間で3人が転落死する状況を防げなかった施設です。一歩間違えば、自分の母親もどうなっていたかわからないと思うと恐ろしいです」》 本誌はこの動画を入手した。そこにはいきなり職員(A氏とは別人)が女性入居者の頭を叩く様子や、同じ職員に首を絞められた女性入居者が「死んじゃうよ」と言い続ける虐待の様子が克明にとらえられていたのだった。 不可解な連続転落死の真相は何だったのか。警察は捜査を進めていたが、防犯カメラの記録などの物証はないうえに、他の入居者からの証言も取れておらず、捜査は難航していた。 ◆やはり殺人事件だった 虐待事件に関しては’15年12月、当時の職員3人が暴行容疑で書類送検され、後に1人が在宅起訴、残る2人が不起訴となった。 川崎市は施設からの介護報酬の請求を3ヵ月間停止させる行政処分を行っている。 虐待等が起きた背景として介護業界の人手不足と職員の能力やモラルの低下などが指摘された。事件が起きた老人ホームの経営母体は、’00年代に介護付きホーム事業に進出して急拡大した会社だった。コスト重視の経営方針を打ち出していたために、他の施設と比べて職員数も少なく、サービスやケアは現場任せで手薄になっていたといわれる。Aが入居者への窃盗を繰り返せたのも、職員なら誰でもマスターキーで入居者の部屋に出入りが可能だったからだという。 ’15年9月に窃盗罪で懲役2年6ヵ月・執行猶予4年の有罪判決を受けたAは、前述の虐待事件には関係していなかった。だが、連続転落死の重要参考人として、それからたびたび警察から事情聴取されることとなる。 そして、’16年2月にAは入居者の殺害を認める供述をして逮捕された。動機についてAは「介護の仕事にストレスがたまっていた」という趣旨のことを話していた。Aは’18年3月に死刑判決を受け、’23年5月に死刑が確定している。

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