前代未聞の事件が、 あろうことか警察の、捜査の根幹に関わる部門で起きた。 佐賀県警・科学捜査研究所の男性職員が、DNA型鑑定で不正を行っていたのだ。 実際には行っていない鑑定をねつ造したり、数値を改ざんしたりした ”鑑定不正”は、分かっているだけで130件にのぼる。 DNA型鑑定は、事件や事故で被害者や容疑者を特定するために行われる捜査手法だ。 捜査においては逮捕・起訴の判断、裁判においては有罪・無罪の判断に影響する、 極めて重要な証拠になりうる。 佐賀県警の信頼は地に落ちたも同然だが、刑事訴訟法の専門家は「佐賀県警だけの問題ではない」と指摘する。なぜか。 ■届いた1枚のFAX 9月8日午前11時。 報道機関各社に佐賀県警から「職員に対する懲戒処分の実施について」と書かれた、いわゆる”記者レク”の案内文が届いた。 文末には「動画、写真ともに撮影不可とします」の文字。 「記者レク」とはペン取材のみが許された会見だ。 「会見」とは違ってカメラ取材ができない。 案内文には「DNA型鑑定作業において不適切な鑑定を行ったもの」との記載があった。 「不適切なDNA型鑑定」が行われていたとすれば深刻な問題で、 カメラを入れた「会見」をすべきではないか。 佐賀県警の記者クラブでは、集まった記者と佐賀県警の広報官との間で押し問答になった。 記者 「国家権力として捜査する警察で、不適切な事案が起きているのに、 撮影ありの公開の場を設けないのは県民に対し不誠実なのではないか?」 佐賀県警・広報官 「今回の事案に関しては警察組織として記者レクでの発表が相応と判断した」 記者 「県民への謝罪の気持ちはないのか?そういう対応であれば 報道としてもレクをボイコットすることも考えるが?」 佐賀県警・広報官 「再度、検討して回答する」 結局、佐賀県警は冒頭の概要読み上げ部分のみカメラ取材を認め、 その後の質疑応答についてはカメラマンを退出させた。 佐賀県警 井上利彦 首席監察官 「佐賀県警の科学捜査研究所に所属する40代の男性技術職員を 虚偽有印公文書作成同行使、虚偽無印公文書作成同行使、 証拠隠滅の疑いで佐賀地方検察庁に書類送致しました。 また本日8日付けで懲戒免職の処分としました。 このような事案を発生させたことに対しまして 県民の皆様に深くお詫びを申し上げます。申し訳ありませんでした」 佐賀県警によると、 40代の男性職員は2012年、佐賀県警の科捜研に技術職として採用された。 DNA型鑑定ができる資格をとり2015年からDNA型鑑定を行っているが、 2017年6月から去年10月までのおよそ7年4か月、男性職員が1人で担当した632件の鑑定で、130件の不正が行われていた。