不法投棄が横行して全国各地に「墓石の墓場」が出現! 《少子高齢化の新たな問題を警鐘ルポ》

とある山奥に積みあがった大量の石。よく見ると、「○○家之墓」といった家名が刻まれている。実はこれ、すべてが墓石なのである。雨風に晒(さら)され、無残な姿で放置される「墓石の墓場」が今、全国各地で急増している――。 「ここ数年、墓石を買う方が減る一方で、先祖代々続いてきた墓を解体・処分する″墓じまい″が増えています」 そう話すのは中部地方で石材店を営む店主だ。墓じまいの理由として多いのが、「都心で暮らすようになり、田舎まで墓参りに行くのが大変」「親族が高齢で墓参りに行けない」というもの。墓を整理し、利便性のよい合同墓や納骨堂に遺骨を移す″改葬″が増えているという。 厚労省が公表する「衛生行政報告例」の最新データによれば、’23年度の全国の改葬件数は約16万7000件で統計開始以来の最多を更新した。だが、墓じまいの増加によって新たな問題が発生していることは、あまり知られていない。前出の店主が言う。 「不要になった墓石が、その後どうなるかというのを知らない人が多いのですが、実は不法投棄されるケースが後を絶たないんです。人々が供養を続ける目的で改葬する裏で、代々守られてきた墓石がゴミのように捨てられているのです」 墓じまいの後の墓石は通常、どのように処分されるのか。墓じまいを専門に手掛ける奈良県の株式会社美匠(びしょう)・中西あざみ社長が解説する。 「不要になった墓石は、当社のような運搬を行える許可業者が提携先の中間処分場に運びます。処分場で破砕処理をされ砂利となって、舗装や道路の路盤材などに使われるケースが多いです」 では、処分場に持ち込まれずに不法投棄されるケースが全国で多発しているのはなぜなのか。中西社長が続ける。 「墓石は産業廃棄物として扱われるため、元請けが処分場への運搬を委託する際、『産業廃棄物収集運搬業許可』を持っている業者に引き渡さないといけません。当社でも担当する27都府県の許可を5年ごとに更新しています。 しかし、運搬はトラック1台あればできるため、参入障壁は低い。そこに目を付けた悪徳業者が、あたかも許可があるかのように偽り、格安で運搬を請け負うケースが増えているんです。彼らは処分場に搬入できないため、当然、不法投棄をすることになります」 ◆規格外の巨大墓場が誕生 兵庫県南あわじ市――。鳴門海峡へと続く高速道路のインターチェンジ近くにある「墓場」には、墓石が4mほどの高さまで積み上げられていた。墓石は地中にも埋められており、その量は実に1500t以上と見られる(上写真)。 ’08年、この山林に墓石を不法投棄したとして、墓石販売業A社の社長らが廃棄物処理法違反で逮捕されている。当時の報道によると、A社の社長は大阪、兵庫、京都などの5府県にある約150の石材業者や寺院などから、正規業者の約半値で墓石の廃棄を請け負っていたという。 しかし、その後も別の業者による不法投棄は続き、現在のような巨大な墓場となってしまった。南あわじ市産業建設部の担当者によれば、同地は所有者から墓石処分相当額の3000万円を控除したうえで市が買い取り、今後は駐車場として整備する予定だ。 中西社長曰く、「墓場」は岐阜県や岡山県、茨城県でも確認されているという。 別の石材会社社長は、業界の構造上の問題を明かす。 「ネットで″墓じまい″と検索すると、たくさんのサイトが出てきますが、それらと提携する下請け業者の中に無許可業者が多く紛れている。資格を持ち、墓石運搬を専業で行う業者は、私が知る限り全国で10社もないと思います。 不法に廃棄された墓石に、『○○石材店』というプレートが付けられたままになっているケースがある。これをもとに依頼元を辿ることもできるが、たいていは『運搬業者には不法投棄しないと確認した』と言い訳されるのが関の山。 依頼する側も、不法投棄される可能性に気づいたうえで、コストを優先し、安い業者に出している。その構造が問題なんです。ですから、顧客は格安で墓じまいができたと思っていても、実は不法投棄されていたということが起きているのです」 墓石の行方が不安なときは、依頼元へ次の問い合わせを行うと良いという。 「通常、墓石処分を委託した際に委託契約に加えてマニフェスト(産業廃棄物管理票)の控えが元請けに交付されます。運搬や処分の各工程が終了するごとに、元請けへマニフェストの控えが戻ってくる。つまり、マニフェストを確認することによって委託業者が最終処分まで適正に行ったかがわかるのです」(中西社長) 安さや手軽さだけに流されれば、知らぬ間に先祖代々の墓石が山中で無残に転がるなんてことになりかねないのだ。 『FRIDAY』2025年9月26日号より 取材・文:甚野博則(ノンフィクションライター)

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