安倍元首相銃撃 被告の弁護側、教団による「宗教被害」主張へ

安倍晋三元首相(当時67歳)が2022年7月、参院選の応援演説中に銃撃され死亡した事件の裁判員裁判で、山上徹也被告(45)の弁護側が「事件は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)による膨大な規模の被害の一つ」と主張する方針であることが関係者への取材で判明した。教団による類例のない「宗教被害」によって、山上被告の周辺で悲劇の連鎖が起きたことを立証し、情状酌量につなげたい考えとみられる。公判は10月28日から奈良地裁で始まる。 山上被告は手製の銃で安倍氏を殺害したとして現行犯逮捕され、殺人罪などで起訴された。取り調べに対し、自身が小学生の頃に母親が旧統一教会の信者になって家庭が崩壊したことを挙げ、「恨みがあった教団に打撃を与えようと考え、つながりがあるとされる安倍氏を襲撃した」という趣旨の供述をしていたという。 関係者によると、弁護側は、山上被告の事件の動機が政治テロではなく、旧統一教会に向けられていたと分析。旧統一教会には違法な「献金勧誘」と、信者である親の下で育った「宗教2世」の問題があり、これらの被害が複合的に絡み合った結果、今回の事件が起きたと公判で主張するという。 弁護側は殺人罪の成立については争わない方針だが、裁判員らに適切な量刑を判断してもらうには、教団によるマインドコントロールやカルトへの理解が必要と公判前整理手続きで訴えている。教団による被害の全体像を示した上で、山上被告が置かれた境遇や動機の形成過程を立証したい考えで、宗教学者や山上被告の母親ら5人の証人尋問を求めているという。 これに対して検察側は、事件の量刑は、悪質性や計画性、被害の程度といった要素によって大枠を決めるべきで、山上被告の生い立ちを過度に重視するのはおかしいと反論している。山上被告は教団からマインドコントロールを受けておらず、母親とも距離を置いて生活していたとし、教団の教義や活動内容に踏み込むのは不適切だと主張しているという。 検察側、弁護側の意見を踏まえ、地裁は近く証人の採否を決定するとみられ、裁判所の訴訟指揮が公判の展開に大きな影響を与えそうだ。公判は年内に結審して26年1月に判決が言い渡される見通し。【田辺泰裕、岩崎歩】

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