執行猶予判決の94%に「野放しリスク」 再犯防止の保護観察なしで社会復帰する現実

刑事裁判で裁判官が執行猶予付き有罪判決を言い渡す際、保護観察を付ける割合(保護観察率)が低下し続けている。罪を犯した人を指導・監督することで再犯を防ぐことなどを目的とした制度で、保護観察が付かなければ、基本的に執行猶予期間中の行動に制限はない。8月に発生した神戸市の女性刺殺事件では容疑者が3年前、別事件で有罪となった際に保護観察が付いておらず、「野放し」との批判も上がった。制度運用の低調さが「防げるはずの犯罪」を許している可能性もあり、専門家は有効に活用すべきだと指摘する。 犯罪白書によると、令和5年に全国の地裁で全部執行猶予判決を受けたのは2万6248人で、そのうち保護観察が付けられたのは1536人。保護観察率は5・9%で平成以降最低だった。 昭和後半には20%ほどだった保護観察率だが、平成元年には13%に。その後も一時期を除いて低下傾向が続き、近年は低さが顕著になっている。 集計方法が同じになった11年(保護観察率10・7%)と令和5年を比較すると、罪名別では、窃盗▽詐欺▽傷害▽覚醒剤取締法違反-などが大きく減少。性犯罪では微増だが、事件数や執行猶予判決が多い窃盗や傷害事件などで保護観察が付かなくなったことが、率の低下に影響している。 なぜ保護観察率が下がっているのか。2度続けて執行猶予判決を言い渡す場合を除き、保護観察の有無は裁判官の裁量に委ねられている。それぞれが独立して判断を下しているため明確な理由は不明だが、元裁判官で法政大の水野智幸教授は「刑罰は行為責任に応じて決めるものだが、保護観察を付けると刑が重くなり、行為責任を超えかねないという考えが裁判官には強い」と指摘する。 そもそも再犯リスクは審理の中心にはならず、裁判官は保護観察の効果といった「裁判後」に実感を持ちにくい面もある。保護観察を付けない判例が積み上がり、さらにそれが参照されることで、低下傾向に拍車がかかっているとみられる。 一方、平成21年に始まった裁判員裁判では保護観察率がおおむね50%を超えている。裁判員裁判の対象事件は法定刑が重いという面もあるが、市民感覚では〝野放し〟にすることへの抵抗が強いとみられている。

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