「世界えん罪の日」の2日、化学機械メーカー「大川原化工機」の冤罪(えんざい)事件を風刺した新聞広告が、中日新聞東海本社版の朝刊に掲載された。 見開き広告のキャッチコピーは「この国では、えん罪も成果になる」。 ストーリーありきの捜査をした警視庁公安部、その違法捜査を追認した検察、保釈請求を却下し続けた裁判所を「人質司法関係者」と称し、表彰状を授与する形で痛烈に批判している。 ◇立件時の表彰を皮肉る 大川原化工機の社長ら3人は2020年3月、外為法違反(不正輸出)容疑で逮捕・起訴され、初公判4日前に起訴が取り消された。容疑を否認した社長らの勾留は約11カ月に及び、その間に胃がんが見つかった元顧問の相嶋静夫さん(享年72)は被告の立場のまま亡くなった。 大川原側が起こした国家賠償請求訴訟では、警視庁と東京地検の捜査を違法とする判決が確定し、捜査機関は検証や謝罪に追い込まれた。 事件を立件したことで、公安部外事1課は20年7月に警視総監賞、12月に警察庁長官賞を受賞した(後に返納)。捜査を指揮した幹部や捜査推進派の捜査員らは軒並み昇任している。 広告はこの経緯を風刺し、表彰状の形にしたという。 広告は「私たち一人ひとりの声が、えん罪を『成果』から『恥』に変えるのです」という言葉で結ばれている。 ◇「関心を持ち、声を上げて」 広告を掲載したのは、国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」と冤罪被害者支援団体「イノセンス・プロジェクト・ジャパン」が共同で進めるプロジェクト「ひとごとじゃないよ!人質司法」。 プロジェクトが意見広告を出すのは3回目。戦後最大の冤罪事件とされる「袴田事件」が起きた静岡県に配送される中日新聞東海本社版で、23年から「人質司法」の見直しに向けた世論を高める広告を掲載している。 否認や黙秘をすれば保釈が簡単に認められず、長期勾留されやすい日本の司法制度は人質司法と批判されている。 ヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表の土井香苗さんは「大川原化工機事件は人ごとではない。多くの人が人質司法に関心を持てば、必ず変わる。人質司法見直しに向けて声を上げてほしい」と訴えた。【遠藤浩二】 ◇表彰状の全文は次の通り あなたは捜査にあたり、筋書き通りに被疑者を逮捕するために、証言の誘導やデータの隠蔽(いんぺい)に創意工夫を凝らしました。 また、捜査の検証を省いて起訴し、保釈も却下し続けることで、有罪判決へと邁進(まいしん)されました。 推定無罪がゆらぐほどの精勤をここに称(たた)え、表彰いたします。 令和七年十月二日「世界えん罪の日」