イギリス中部グレーター・マンチェスターで2日に起きたシナゴーグ(ユダヤ教の会堂)襲撃事件について、警察は3日、現場で射殺された容疑者が、レイプ容疑で逮捕され保釈中だったと明らかにした。事件は、ユダヤ教の最も神聖な祭日である「贖罪(しょくざい)の日」を意味するヨム・キプルに起きた。 グレーター・マンチェスター警察(GMP)によると、ジハード・アル・シャミー容疑者(35)は、「過激なイスラム主義思想」に影響を受けていた可能性があるという。容疑者は、マンチェスター近郊プレストウィッチ在住のシリア系イギリス人だった。 警察によると、警察および治安機関の対テロ記録にアル・シャミー容疑者の名前は今のところ見つかっていない。英対テロ警察を率いるローレンス・テイラー氏は「現時点では、アル・シャミーが過激なイスラム主義思想に影響を受けていた可能性があると考えている」と述べた。 警察は事件に関連して、すでに拘束している3人に加え、18歳から40代半ばの計3人を、テロ行為の実行・準備・扇動の容疑で新たに逮捕したと明らかにした。 アル・シャミー容疑者の家族は3日、声明を発表し、「私たちはこの襲撃から完全に距離を置き、今回の出来事に深い衝撃と悲しみを表明します。私たちの心と思いは犠牲者とその家族と共にあり、家族が力を持てるよう、いやしが得られるよう祈ります」と述べた。 プレストウィッチの住民はBBCに対し、アル・シャミー容疑者はトレーニングに熱心で、口数が少なく、近隣住民とほとんど話さなかったと話した。 ■死者の1人は警察に撃たれ 2日朝の事件では、アル・シャミー容疑者がシナゴーグの前で、通行人に向かって車で突入し、刃物で複数の人を刺した。 事件では警察に射殺された容疑者のほか、メルヴィン・クラヴィッツ氏(66)とエイドリアン・ドールビー氏(53)が死亡した。 グレーター・マンチェスター警察によると、ドールビー氏は、警察が襲撃犯を射殺した際に警察の発砲によって銃弾を受けた。 スティーヴン・ワトソン本部長は3日の声明で、容疑者は銃を持たず、現場での発砲は警官によるもののみだったため、被害者のうち銃弾を受けた死者と負傷者はどちらも、警官の発砲が原因だった可能性があると明らかにした。 本部長は、「亡くなった被害者の1人は、銃創と見られる傷を負っていた」としたほか、「ジハード・アル・シャミー容疑者は銃を持たず、現場での発砲は、発砲許可を得たGMPの警官によるものだけだったと現在、考えられている。発砲した警官たちは、襲撃犯がシナゴーグに侵入してユダヤ系コミュニティーにさらに危害を加えるのを防ごうとした。このため、被害者は悲しいことに、この凶暴な攻撃を負わせるために警官たちが急きょ必要とした行動のため、予期しない形で銃創を負った可能性がある」と説明。 また、負傷して病院で治療中の3人のうち、1人が重体ではないものの銃創を負っていると本部長は述べ、「2人ともシナゴーグのドアの後ろで近くにいたと考えられている。襲撃犯が中に入るのを防ぐため、参拝者たちは勇敢に行動していた」のだと説明した。 ドールビー氏の家族は、ドールビー氏は「他人を救うための勇敢な行為の最中に命を落とした」と述べ、その最後の行動は「深い勇気によるもので、彼はいつまでも記憶される」と語った。 クラヴィッツ氏は事件現場となったクランプソールの出身で、シナゴーグの警備員として働いていた。家族は彼をたたえ、「とても親切で思いやりがあり、いつも人とおしゃべりをして、相手を知ろうとしていた。妻と家族を深く愛し、食べることが大好きだった。妻と家族と友人たち、そして地域社会が、彼を深く惜しむことになる」と述べた。 イギリスの警察監察機関「警察行為独立事務所(IOPC)」は、この襲撃に対応した武装警官による致死力の使用について調査すると発表した。 武装警官は誤ってドールビー氏に銃撃で致命傷を負わせたほか、シナゴーグで参拝していたヨニ・フィンレイ氏にも重傷を負わせた。 調査は「警察がジハード・アル・シャミーを銃撃し死に至らしめた際の状況」に加え、「致命的な銃創を負ったと後に発覚した男性の死に、警察が関与した可能性」を中心に調べるという。 ■事件の詳しい経緯 イギリス対テロ警察は3日、マンチェスター・クランプソールにあるヒートンパーク・ヘブライ会衆シナゴーグで起きた事件の発生に至る詳細も発表した。 対テロ警察トップのテイラー氏は報道陣への声明で、「目撃者の証言によると、シナゴーグの外で不審な行動をしていた男性に警備員が気づき、声をかけたところ、男性はその場を立ち去った」と述べた。 この時点ではまだ警察への通報はなかった。 その15分後に「同じ人物が車両で戻ってきて、恐ろしい襲撃を開始した」のだと、テイラー氏は説明した。 警察は、現在拘束中の6人全員について、勾留延長の令状を請求していると述べた。 ラビ(ユダヤ教の宗教指導者)・ダニエル・ウォーカー師は、襲撃が発生した際にシナゴーグの中で祈りを主導していた。男が「ドアに体当たりし、重い植木鉢を投げつけ、何としてでも中に入ろうとする」様子に、「悪と憎しみ」を見たと話した。 ウォーカー師はシナゴーグにいた人々の機転を称え、「私は本物の英雄的行動を目にした。逃げるのではなく、他の人を助けるために駆け寄った人々がいた。驚くべきことだった」とBBCに語った。 シナゴーグのアラン・レヴィ理事長は、英ITVニュースに対し、アル・シャミー容疑者が「これは、我々の子どもたちを殺したことへの報いだ」と叫びながら、「ナイフをガラスに打ちつけて中に入ろうとしていた」と話した。 (英語記事 Synagogue attacker was on bail after rape arrest, police say)