「空き部屋はありません」…カンボジア前首相側近の“詐欺リゾート”、制裁をあざ笑うように賑わう

タイと国境を接するカンボジア南西ココン(Koh Kong)の海岸。エメラルド色の海で水遊びを楽しむ地元の家族の背後には、コリント式の柱と壮大なドームで飾られた「ココン・リゾート」が威容を誇っている。 このリゾートを運営しているのは、現フン・マネット首相の父親で、1985年から2023年まで38年間カンボジアの首相を務めたフン・セン上院議長(73)の側近、リー・ヨンパット上院議員(67)だ。ホテル・カジノ・観光事業などを手がけるリー・ヨンパット・グループを経営し、巨万の富を築いた彼は、現地では「ココンの王」と呼ばれる大物だ。 彼は昨年9月、リー・ヨンパット・グループとともに米国財務省の金融制裁対象に指定された。ココン・リゾート、オースマハ・リゾート、ガーデンシティ・ホテル、プノンペン・ホテルの4カ所も制裁リストに加えられた。サイバー詐欺(スキャム)、人身売買、拷問など、さまざまな犯罪が行われていたというのが理由だった。米国の制裁にもかかわらず、リー・ヨンパット氏の与党内での地位は揺るがなかった。制裁直後、カンボジア人民党はむしろ「党はリー・ヨンパット氏が米国が告発した人身売買を犯していないと強く信じている」とし「リー・ヨンパット氏に対する制裁の撤回を求める」と主張していた。 19日午後、記者が訪れたココン・リゾートは、米国の制裁をあざ笑うかのように繁盛していた。昼間にもかかわらず、カジノは客で半分ほど埋まっていた。武装警備員が厳重に警備している他の犯罪拠点(ウェンチ、園区)とは異なり、入口は大きく開かれていた。リゾートの従業員に「一晩泊まれるか」と尋ねると、「予約で満室です」との答えが返ってきた。現地在住の韓国人は「タイとの戦争(国境紛争)で客足は以前ほどではないはずだが、空き部屋が一つもないのはおかしい。外部の人を警戒しているようだ」と語った。 不審な様子も目についた。リゾートの客室廊下の端にある隣の建物へ続く薄暗いコンクリートの通路からは、刺青を入れた若者たちが頻繁に出入りしていた。通路のあちこちには監視カメラ(CCTV)が設置されていた。実際、今月8日にはシンガポール最大の日刊紙「ストレーツ・タイムズ」が、ココン・リゾートでの就職詐欺が疑われる求人広告を仲介したシンガポール企業に対し、警察が捜査を開始したと報じた。 報道によると、該当企業は求職者に月給5000ドル(約75万8000円)の上級顧客サービス担当職を提案したという。その後、ココン・リゾートで3カ月間宿泊して教育を受けなければならないといって求職者を引き入れたといわれている。ある現地住民は「リゾートで詐欺が行われていることは知っているが、警察が取り締まりに来たという話は聞いたことがない」と語った。 ◇「スコールはすぐ止む。犯罪拠点もすぐ再開する」 最近、カンボジアの犯罪事態に国際社会の注目が集まり、制裁が相次いだことで、カンボジア政府は連日、犯罪拠点を急襲している。しかし、カンボジア内外では「見せかけの取り締まり」として、冷ややかな視線を送る者もいる。現地の公権力と犯罪組織との癒着構造が依然として続いているという分析のためだ。米国務省は9月29日に発表した「2025年人身売買報告書」で、「政府は事業運営者と疑われる人物や、それに関与する高官を逮捕・起訴したことがない」とし「米国の制裁を受けた上院議員にも刑事責任を問わなかった」と指摘した。 シアヌークビルのある資金洗浄ブローカーは中央日報の取材に対して「組織員たちは今、一歩も外に出ていない」としつつも、「すぐ止むスコールのようなものだと思っているから、まもなく活動を再開できると考えている」と話した。 専門家たちは、今回のカンボジア犯罪事態について、韓国政府は「長期戦に備えるべきだ」と指摘する。サイバー詐欺は、東南アジア地域に蔓延する腐敗と、中国資本に依存した経済構造が結びついて生じた現象であり、短期間で解決できる問題ではないという。高麗(コリョ)大学政治外交学科の李信和(イ・シンファ)教授は「長期的には、中国資本が東南アジアに流れ込む構造そのものを変える必要がある」とし「国際的な協力が求められる超国境的な人身売買事件ということで、韓国が20年ぶりに議長国を務める2025年アジア太平洋経済協力(APEC)で関連する議題を主導的に取り上げるのも一つの手だ」と助言した。

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