刑事事件の被告が、手錠と腰縄で拘束された姿を法廷でさらされるのは、侮辱的ではないか―。裁判所で「当たり前」とされてきた光景の見直しを求める動きが、京都などの弁護士の間で広がりつつある。 保釈されていない被告は一般に、両手に手錠をされ、腰に巻いた縄を持つ拘置所職員らに連れられて法廷に出入りする。その姿は傍聴席からも見える。裁判官が審理が始まる直前に解錠を指示し、手錠と腰縄が外される。刑事訴訟法は原則、法廷での身体拘束を禁じているからだ。 裁判員裁判の場合は、裁判員に「有罪」の思い込みを与える恐れがあるとの懸念から、解錠後に裁判員が入廷する「時間差方式」が定着しているが、傍聴人には拘束姿が見えることになる。 手錠と腰縄をされた様子が「市中引き回しのようだ」と訴え、改善を求める声は以前からあった。1992年、恐喝罪に問われて京都地裁で審理中だった男性被告が拘束姿を見られることに抗議。裁判官は解錠するまでの間、傍聴人を一時退席させる措置をとった。翌年7月、最高裁は「避けるべき事情が認められる場合には傍聴人のいない所での解錠・施錠が相当」とする通知を出した。京都の事案を受けた対応だったとみられる。 ただ、その後もほとんどの法廷で拘束姿が見える運用は続いてきた。2014年、こうした運用に抗議して被告とともに出廷を拒否した弁護士に対し、大阪地裁が過料3万円の処分を出した。事態を重くみた日弁連はプロジェクトチーム(PT)を立ち上げて実態を調査。昨年10月、個人の尊厳や、推定無罪として扱われる権利の侵害に当たるとして、やむを得ない場合を除いて手錠・腰縄の使用を中止するよう求める決議をした。