トランスジェンダー当事者が過去の事件映画化「ブルーボーイ事件」外国特派員協会で会見

1960年代後期に実際に起きた事件を題材にした映画「ブルーボーイ事件」(14日公開)の飯塚花笑監督(35)と主演の中川未悠(30)が4日、都内の日本外国特派員協会で会見を開いた。 トランスジェンダー男性の飯塚監督は、トランスジェンダーをテーマに描いた今作に当事者を俳優として起用しており、トランスジェンダーが手を携えて作り上げた作品が、全国70館と大きな規模で公開される意義を強調した。 「ブルーボーイ事件」は、東京オリンピック(五輪)や大阪万博で沸く高度経済成長期の日本で、国際化に向け売春の取り締まりを強化する中、性別適合手術を受けた通称ブルーボーイたちを一掃して街を浄化するため、検察は手術を行った医師を逮捕。手術の違法性を問う裁判には、実際に手術を受けた証人たちが出廷した。その事件に衝撃を受けた飯塚監督が脚本から手がけた。演技初挑戦で主演を務め上げた中川もトランスジェンダー女性で、性別適合手術を受けた女性サチを演じた。 飯塚監督は「昨今。LGBTQというワードがメディアに上がってくることが多くなった。ただ、あまり知識がない方が(トランスジェンダーを)最近、ポッと出た新しい人じゃないかと言っているが、違うよと」と指摘。「今も、ブルーボーイ事件の当事者の方は生きている。歴史に埋もれさせるのではなく、今、取り上げるべきじゃないかと」と製作した狙いを語った。 LGBTQを描いた、これまでの作品との違いは? と聞かれると、飯塚監督は「メジャーな映画でありながら(トランスジェンダー)当事者が作っているのが大きく違う」と強調。「自分も、映画の中にロールモデルを探してきたが、表現に違和感を感じた。大げさな言い方かも知れないが、こうした作り方があるという成功体験になれば、うれしい。ヒットしないと成功にならないので、応援してもらえれば」と呼びかけた。 中川は「前に、ドキュメンタリー映画に出演したことがありまして。その際に『勇気をもらった』『背中を押してもらった』という声を頂いた。トランスジェンダー当事者として、自分にしかできないことをやっていきいと思う中でお話を頂いた」と、オーディションを受けた経緯を説明。「お芝居の経験がなく、不安だったんですけど、誰かの勇気になれたらと思い、出演を決意しました」と思いを語った。 演じたサチが証人として裁判の証言台に立ち、自身の思いを訴えるシーンがある。質疑応答で「裁判のシーンで直接、カメラに目線を向けている。裁判ではなく直接(観客に)訴えかけているのではないか?」との質問が出た。中川は「お芝居が初めてだったので、カメラを向けられるのは、すごく恐怖だったんですけど、サチの証言は重かった」と振り返った。その上で「脚本を頂いて、せりふを読ませて頂きましたけど、自分と重なった。自分自身の言葉で伝えたいという思いもあった。カメラに向かって言っているんですけど、私とサチの思いを観客に伝えたいという思いで演じました」と、劇中のサチのせりふが自分の言葉になっていったと振り返った。 トランスジェンダーが生活しやすくなるためには、どうなればいいか? との質問も投げかけられた。飯塚監督は「性同一性障害特例法というのが現在、議論になっている。体の一部を変えないと認めない、というのを、一個人として早く改善して欲しい」と訴えた。中川は「私の場合、男性器があることが違和感だったので、手術をして戸籍を変えるところまでした」と自身の経験を語った。その上で「手術をしなくても良いという方もいる。何か持病があったり、理由があって性別を変えられない方もいる。1人1人の個人を尊重した決めごとがあると良い。寄り添う形の法律ができれば、皆さんが過ごしやすくなるんだと思う」と続けた。 その上で「本当にお芝居の難しさ、楽しさに気付かせて頂いた。今後も続けたいです」と、今後の俳優業の継続に強い意欲を見せた。飯塚監督が「性的少数者がキャスティングにまで至らない。土壌を用意したかった」と現状を語る中、中川は「性的マイノリティーはコメディー、笑いと捉えられる存在。私がお芝居に力を入れれば(俳優を)目指そうという方が増えて世の中が変わっていけば良いと思う。これからも頑張って行きたい」と自身が俳優を目指す性的少数者のロールモデルになっていく意気込みを示した。

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