イスラエル入植者がパレスチナ人の農地を襲撃、倉庫などに放火 ヨルダン川西岸で攻撃急増

イスラエル占領下のパレスチナ・ヨルダン川西岸地区北部で11日、イスラエル人入植者数十人がパレスチナ人の農地を襲撃した。倉庫などが放火されたほか、ベドウィン(遊牧民)の村が標的にされた。この攻撃でパレスチナ人数人が負傷した。 現地はオリーブの収穫期にあたり、各地の農地にパレスチナ人が集まるタイミングで襲撃が起きた。西岸地区ではこのところ、イスラエル人入植者による暴力行為が急増している。 国連の人道問題調整事務所(OCHA)は最近、入植者による暴力的な攻撃について、先月の発生件数が約20年前の統計開始以来で最多だったと発表していた。 イスラエルは1967年の第3次中東戦争で、ヨルダン川西岸と東エルサレムを占領。以来、約160の入植地を建設し、約70万人のユダヤ人が住んでいる。現在は推定330万人のパレスチナ人が、入植地のそばで暮らしている。パレスチナ人は、これらの地域とガザ地区を、将来的にパレスチナ国家の一部とすることを望んでいる。 入植地の建設は国際法上、違法とされている。 11日の襲撃をとらえた映像では、ヨルダン川西岸トゥルカルム東部の急流地帯に覆面の男性が数十人いるのが確認できる。ベイト・リド村ではパレスチナ人の倉庫が襲撃され、複数のトラックに火がつけられた。 ベドウィンが暮らすデイル・シャラフ村で複数のテントが燃える様子や、女性の叫び声も確認できる。 パレスチナ自治政府の「壁と入植地抵抗委員会」のムアイヤド・シャアバン委員長は、これらの攻撃は「威嚇と恐怖によって敵対的環境」を構築するキャンペーンの一環だと指摘した。 イスラエル国防軍(IDF)は、部隊が「暴動鎮圧手段を用いて衝突を解消し、複数のイスラエル市民を拘束した」と発表した。また、現場近くに集まった入植者に兵士が攻撃され、軍の車両が損傷したとした。 イスラエル警察は、4人の容疑者を逮捕したと明らかにした。 イスラエルのイツハク・ヘルツォグ大統領は、「衝撃的で深刻」な事案だとソーシャルメディアに投稿。「暴力的で危険な個人数人」を非難した。 続けて、「民間人やIDF兵に対するこうした暴力は、レッドライン(越えてはならない一線)を越えており、強く非難する」とした。 IDF中央司令部のアヴィ・ブルース少将も攻撃を非難し、このような事案は「治安の安定を損なう」とした。 「無政府主義的な過激派の若者が、罪のない民間人や治安部隊に暴力を振るう現実は容認できないし、極めて深刻だ。断固として対処しなければならない」として、ブルース少将は将校たちにあてたメッセージで「IDF兵への指示は明確だ。傍観せず、いかなる民族主義的な犯罪行為も阻止すべく全力を尽くせ」と指示した。 2023年10月7日のイスラム組織ハマス主導のイスラエル南部奇襲と、それをきっかけにガザ地区での戦争が起きて以来、入植者による暴力行為は劇的に増えている。 イスラエルの人権団体「イェシュ・ディン」によると、2005年から2024年までにヨルダン川西岸(東エルサレムを除く)で、イスラエル人がパレスチナ人に対して犯した犯罪に関する警察の捜査1701件のうち、93.8%は起訴に至らなかった。 OCHAは、10月にイスラエル人入植者による攻撃が260件以上あり、死傷者や物的被害をもたらしたと報告している。平均すると1日8件発生していたことになる。 オリーブの収穫期に入ると、入植者による暴力行為が近年で最高水準に達したという。これまでに約150件が記録されている。77の村で140人以上のパレスチナ人が負傷し、4200本以上の木や苗木が破壊された。 今年に入ってからは、入植者による攻撃が約1500件記録されている。 国連のトム・フレッチャー事務次長(人道問題担当)兼緊急援助調整官は最近、「このような攻撃を防止または処罰しないことは国際法に反する。パレスチナ人は保護されなくてはならない。罪を免れることは許されない。加害者は責任を問われなければならない」とソーシャルメディアに投稿している。 パレスチナ人や複数の人権団体は、IDFが過激な入植者を保護または支援していると、しばしば非難している。 ヨルダン川西岸ナブルス近郊のベイタでは11日、13歳のアイサム・ムアラさんの葬儀が行われ、数百人が参列した。報道によるとムアラさんは先月、エヴィヤタルにある入植者の前哨基地近くで、オリーブを収穫していた村人にIDFが発射した催涙ガスを吸い込んで昏睡状態に陥り、死亡したとされる。 オリーブの収穫期にパレスチナ人農民を手伝おうと訪れたイスラエル人活動家や外国人ボランティアが、攻撃されることもある。 8日に投稿されたベイタの様子をとらえた映像には、覆面姿の男性たちが、棍棒で地元のパレスチナ人やボランティアの救急隊員、ロイター通信のフォトグラファーや安全保障顧問を殴る様子が映っていた。 収穫に参加していたテルアヴィヴ美術大学のイスラエル人の学長(77)も、顔から血を流す姿が撮影されている。 BBCはこの事案について、IDFにコメントを求めている。 近隣のブリン村では、オリーブを収穫中のパレスチナ人と、収穫を支援していた非番のIDF予備兵数人を入植者が攻撃した。入植者はオリーブの袋も盗んだ。 IDFは声明で、「複数のイスラエル市民が収穫者に石を投げつけた。イスラエル人とパレスチナ人数人が負傷し、治療のため搬送された」と説明。IDF兵が「衝突を解消するために行動した」と付け加えた。 オリーブの収穫はパレスチナ人にとって重要な年中行事で、多くの人にとって主要な収入源でもある。 イスラエルの入植地監視団体「ピース・ナウ」によると、2025年にヨルダン川西岸の入植地で公募された新規住宅は5667戸と、すでに1年あたりの最多戸数に達している。約2万5000人が入居予定だという。 入植推進派のイスラエルのベザレル・スモトリッチ財務相は、新しい入植者用住宅の計画・承認手続きを加速させ、入植地の建設やインフラのための土地収用、政府の承認なしに設置された前哨基地の事後合法化を優先している。 スモトリッチ氏は財務相を務める傍ら、ヨルダン川西岸の民生問題を担当する閣僚職も兼任している。同氏は、自らの取り組みはヨルダン川西岸を事実上併合し、パレスチナ国家の樹立を阻止することを目的としていると宣言している。 (英語記事 Israeli settlers set fire to Palestinian warehouse and land as West Bank attacks surge)

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