日本人観光客も犠牲になった飲酒運転事故が年間1万件超 韓国、交通事故の構造的問題点とは

近年、日韓両国間の旅行客の往来は大きく増加している。2024年の訪日韓国人数は881万7,800人で過去最高を記録し、国・地域別で1位となった。一方、訪韓日本人客数も前年比39.2%増の約322万人に達し、両国合計で約1,200万人が行き来する規模となった。【佐々木和義】 こうした交流の活発化に伴い、これまであまり表面化しなかったトラブルも増えている。その一つが旅行者が交通事故に巻き込まれるケースだ。2024年秋以降、韓国で日本人観光客や外国人旅行者が犠牲となる重大な交通事故が相次いで発生している。 <相次ぐ重大事故> 11月2日夜10時頃、ソウル市鍾路区の興仁之門(東大門)交差点で道路を横断中の日本人母娘が信号無視の自動車にはねられた。50代の母親は死亡し、30代の娘は肋骨を折る重傷を負った。運転していた30代男性の血中アルコール濃度は免許取り消し基準を超えており、警察は男性を飲酒運転と危険運転致死傷の容疑で逮捕。ソウル恵化警察署は11月11日、この男性を送検したと明らかにした。母娘は大阪から2泊3日の予定で韓国を訪問し、東大門市場でショッピングをした後、鍾路区駱山(ナクサン)公園の城郭道を見に行くところだったという。 東大門の事故に先立つ10月21日には、70代の運転手が運転していたタクシーがセンターラインを越えて対向車と衝突した。タクシーに乗車していた20代の日本人夫婦が骨折し、生後9カ月の娘は意識不明の状態で搬送された。運転手は当初、急発進が原因と主張したが、警察の調べに対し、ペダルを誤って踏んだことを認めたという。薬物使用や飲酒は確認されなかった。 10月25日にも江南区論峴洞(ノンヒョンドン)の交差点でカナダ人が死亡する事故が起きている。30代男性が泥酔状態で自動車を運転して横断歩道を渡っていた歩行者をはねた。30代のカナダ人男性が死亡、20代の韓国人女性が重傷を負った。江南警察は運転者を飲酒運転および特定犯罪加重処罰法上危険運転致死、同乗者を飲酒運転幇助の容疑でそれぞれ逮捕した。 韓国警察庁の発表による2024年の飲酒運転事故は1万1,037件で、76.1%に相当する8,396件が免許取り消し基準の0.08%を超えていたという。 11月12日、ソウル在住日本人など26人が貸切バスで地方観光に出かけた際、訪問地最寄りのインターチェンジを通り過ぎそうになった運転手がバスを急停車させ、高速道路本線を後退して分岐点へ戻る危険行為を行った。大事には至らなかったが、惨事につながりかねない運転だった。 韓国では交差点や分岐点での強引な車線変更をはじめとする危険運転は少なくない。危険運転の代表格はバスとタクシーだ。「深夜、金浦空港からホテルまで乗ったタクシーが時速130km以上で走った」という証言や「韓国のバスは運転が荒く乗客を乗せている意識がない」という声もある。 ソウル在住日本人の間で「バスは王様、タクシーは王子様」と言われるほど強引な危険運転が多く、避けきれずにぶつかる事故も頻発する。 <免許制度の問題点> 免許制度も事故の遠因となっている。運転免許は原則10年ごと(65歳以上75歳未満は5年、75歳以上は3年)の更新が必要だ。更新時には以下の講習・検査が義務付けられている。 ・第一種免許(事業用)所持者および70歳以上の第二種免許所持者:適性検査が義務 ・75歳以上:適性検査に加えて交通安全教育の受講が義務 ・過去に免許取消実績がある者:免許切り替え時に6時間の交通安全教育が必要 しかし、これら以外の一般ドライバーには更新時の講習義務がなく、免許取得後に道路交通法の改正を知る機会がない。免許取得時に学んだ法規を忘れてしまった免許所持者など、ドライバーごとに異なる運転ルールとなっている実態がある。 筆者は日本の運転免許所持者が無試験で韓国の運転免許に切り替えできる制度を利用して韓国の運転免許を取得した際、交通法規を記載した冊子かサイトを尋ねたが、答えはないというものだった。また7年以上の無事故者は、試験免除で事業用免許を取得できる制度もあり、韓国内で7年以上ペーパードライバーだった筆者は日本の二種免許に相当する1種普通免許を所持している。 <歩行者保護法規の認知度の低さ> 2023年1月、歩行者保護を強化する改正道路交通法施行規則が施行され、改正から1年経った2024年1月、アクサ損害保険が運転免許所持者1,400人を対象に法改正の認知度を調査するアンケートを行った。改正自体は93.1%が認知していたが、改正内容の認知度は条項により68.8%から86.2%で、22.3%が改正法を守っていないと回答した。横断歩道を渡っている歩行者がいるときに加えて、渡ろうとしている歩行者がいるときも一時停止が義務付けられたが、遵守する運転者はほとんどいない。 さらに歩道も安全とは言い難い。オートバイの歩道通行は茶飯事で、広い歩道を走行する自動車やさらには白バイなどの警察車両が歩道を走行することもある。 <高齢者事故の増加> 高齢者の事故も増えている。2024年10月、慶尚南道金海市で開催された全国体育大会ハーフマラソンの競技中、70代のドライバーが運転する自動車がマラソンコースに進入し出場選手にぶつかって怪我を負わせる事故が発生した。2025年11月10日にも忠清北道で行われたマラソン大会で、80代のドライバーが運転するトラックがコースに進入して20代の選手をはねた。将来を有望視されていた選手は大田市内の総合病院に搬送されて脳死判定を受けたという。 簡素な懲罰も交通事故抑制を阻害する。スピード違反は路上カメラ、駐車違反は取り締まり用車両で撮影して自動車所有者に反則金納付書が送付される。納付書を受け取った車両所有者等が期限内に反則金を納めると完了し、違反者が罰則を受けることはない。違反車両がリース車の場合、反則金納付書はリース会社に送付され、受け取ったリース会社が契約者に転送する。違反者は特定されず、違反記録も残らない。 <交通法規の周知不足> 2018年5月、韓国内349か所で消防車に道を譲る訓練が実施された。火災鎮圧の「ゴールデンタイム」とされる6~7分以内に消防車が現場に到着できるよう消防車に道を譲る必要性をドライバーや歩行者に認識してもらう目的だったが、消防車を追い越すトラックや消防車の車列の間に割り込む車両、消防車を気に留めることなく道路を横切る中年男性や高齢者など、消防車が停止を余儀なくされる場面が多々あったという。 関係機関や韓国メディアは消防車に道を譲らない違法行為を問題視したが、このような訓練を必要とするような、交通法規が周知されず適切な処罰もされない制度自体が問題だろう。

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