三元雅芸×園村健介×阪元裕吾が語る、アクション業界の10年とこれから

2015年に開設した映画ナタリーは、今年で10周年を迎えた。それを記念した特集の第10弾として、「アクション業界の10年」を第一線で活躍してきたキーパーソンたちが振り返る。 座談会に参加したのは、俳優の三元雅芸、アクション監督の園村健介、映画監督の阪元裕吾。それぞれ異なる立場で同じ時代を走り抜けてきた3人は、この10年で生まれた象徴的なヒット作「ベイビーわるきゅーれ」シリーズなどで現場をともにしている。 「HiGH&LOW」プロジェクトの始動、「キングダム」に代表されるマンガ実写化の大ヒット、「ベビわる」などオリジナル作品の台頭。さらに制作環境や安全意識の向上、女性アクションの躍進など、さまざまな潮流がこの10年のアクション界を形作った。何が変わり、何がまだ変わっていないのか。次の10年に必要なものは何か。三者三様の視点から語られる、ざっくばらんなアクション放談をお届けする。 取材・文 / 金須晶子 撮影 / 平野彰 ■ 2015年、それぞれの始まり 三元雅芸・園村健介・阪元裕吾にとって、2015年はそれぞれのキャリアが大きく動き出す“前夜”となる時期だった。当時それぞれ何をしていたのか、この10年を語るうえでのスタートラインから話してもらった。 三元雅芸 三池崇史監督の「極道大戦争」、斎藤工さん主演の「虎影」、そして園村さんがアクション監督を務めた「忍者狩り」という出演作・主演作が立て続けに公開された年でした。この3作品のおかげで、翌年(2016年)のジャパンアクションアワードでベストアクション男優賞をいただけました。 園村健介 その頃まではアクション監督だけじゃなく、助手の仕事もしていました。「図書館戦争 THE LAST MISSION」の撮影が2015年の頭ぐらいで、それが最後の助手ポジションだったと思います。いわば過渡期でした。一歩下がってサポートに回るような、スタントコーディネーター的な立ち位置が多かった時期です。 阪元裕吾 自分はまだ大学生。ただ観ていただけの人間でしたね。2015年と言えば「マッドマックス 怒りのデス・ロード」の年で、「ジョン・ウィック」の日本公開も同じ年だったはず。あのあたりを夢中で観ていました。当時は大学2年生で、3年生になってようやく自主映画を撮り始める。完全にただの消費者でした。 ■ 「HiGH&LOW」が放った異色の存在感 2015年に誕生しアクション業界に大きなうねりをもたらしたのが、LDH JAPANと日本テレビによる総合エンタテインメントプロジェクト「HiGH&LOW」シリーズだ。圧倒的なスケールとエンタメ性で新たなファン層をつかみ、2026年には10周年プロジェクトが始動する。園村もドラマ「HiGH&LOW~THE STORY OF S.W.O.R.D.~」シーズン2にアクション監督の一員として参加している。 園村 ほんの一部分だけなんですけどね(笑)。自分が担当したのは、村山VS轟のタイマンです。もともとは別の方がやる予定だったんですが、昔から一緒にやっていた(その回の監督の)辻󠄀本貴則監督から「そこだけ頼むわ」と言われて。 三元 ヤンキーアクションっていうと「ビー・バップ・ハイスクール」や「クローズ」がありますけど、「ハイロー」はそこに音楽とファッションなどスタイリッシュさを融合させたことで、より“エンタメ”が際立って新鮮でした。あのタイマンも、どうやって振り付けたの?って思うようなすごい動きでしたね。 園村 ほかの現場で「こういうのやってみたいな」と思っていたアイデアを、ちょっと実験的に取り入れました。ヤンキーの喧嘩って胸ぐらをつかむのが定番じゃないですか? だからそこをフィーチャーしてみて。「相手につかませないように」「つかまれたらかわしてつかみ返す」。そんな即興のやり取りをベースにフリーで動いてもらった部分があるんです。ヒット(殴り合い)じゃないところは危なくないからアドリブでも大丈夫ということで。 阪元 ハイローの裏話めっちゃ貴重です……! 自分はドラマ版(「HiGH&LOW~THE STORY OF S.W.O.R.D.~」)から観ていて、村山VS轟もリアタイ視聴しました。「HiGH&LOW THE MOVIE」も映画館で観て、これは面白いぞと。「HiGH&LOW THE MOVIE 2 / END OF SKY」でのUSBメモリを奪い合うカーアクションもすごくて。雨宮兄弟が「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」のバッキーみたいなバイクアクションをやるんですよ! 邦画であれだけハリウッド的なアクションをやるのってなかなか難しいですけど、「ハイロー」はしっかりお金(製作費)を掛けて、ちゃんと成立させているからすごい。 園村 内情はわかりませんが、「面白くなるならお金を惜しまない」という空気は感じましたね。あとスタントマンに聞いた話だと、キャストが多いからスケジュール調整が一番大変らしいんですけど、「撮りきれなかったら別の撮影日を設ける」という体制が整っているみたいです。普通の作品じゃ絶対にできないこと。たいていの現場では「今日撮れなきゃ終わり」って空気があるし、プロデューサーから「撮りきれなかったらあなたの責任です」みたいな圧を感じるんですよ(笑)。 阪元 監督って、ほんと弱い生き物ですからね……。 ■ 原作ものもオリジナルも、鍵はキャラ設計にあり この10年、マンガ実写化の代表例として「キングダム」シリーズが驚異的な成功を重ね、一方で三元・園村・阪元が携わった「ベイビーわるきゅーれ」シリーズや「ゴーストキラー」のような完全オリジナル作品も強い存在感を示してきた。3人の話によれば、原作ものでもオリジナル作品でも、どうやらアクション作りの核にあるのは“キャラクターをどう立ち上げるか”という一点らしい。 三元 原作がある作品は、やっぱり強いですよね。期待して観に来るお客さんがすでにいる。その中で、あれだけの規模感で原作の世界をきちんと実写化している「キングダム」は本当にすごいと思います。一方で、「ベイビーわるきゅーれ」や「ゴーストキラー」のような完全オリジナルは縛りがない分、発想は自由だけどゼロから世界観やキャラクターを立ち上げる難しさもある。そこに挑んで成功しているのは面白いなと感じます。 園村 原作ものだと、「マンガのこの1コマからどう立ち上げていくか」という想像の深掘りが必要になります。でも原作のキャラクターとまったく違う見てくれの人がキャスティングされることもあるから難しい(笑)。役者さんの解釈によっても方向性が変わるので、実際に会って話すまで方向性がつかめないことも多いんです。その点、オリジナルは自分たちのイメージをそのまま構築できるのがメリットです。アクションを作るのは、脚本を書くのと同じ作業だと思っているので、制作側には「アクションを作るのにしっかり時間を掛けたい」というのはいつも伝えています。アクションを組み立てることも、ひとつの物語を構築していく作業なんですよ。例えば「ただ殴り合う」ではなく、「どんな出来事が起きればキャラが立つか」「どんな技がそのキャラの生き方を体現するか」を何パターンも考えて最適解を探っていく。最初から“この技”と決めてしまうと可能性の幅が閉じてしまうので、できるだけ余白を残すようにしています。 三元 以前、園村さんの現場にアクション部として参加したんですけど、「果たしてこのキャラは本当に殴るのか?」みたいなところから議論が始まるんです。殴り方の前に「殴るか? 殴らないか?」の可能性から考える。もはや禅問答ですよ。みんなで2時間くらい、ああだこうだと話し合って。 阪元 哲学的ですね。 三元 そう。人を盾にするときも、「つかんで / 盾にして / 前へ進む」という3つの動きについて「つかむんじゃなくて背中で押すんじゃないか?」みたいに細かく検証する。しかも延々と議論して、最初の案に戻ることもある。でも、そのプロセスに意味があるんですよね。これだけ繊細な作業だなんて外から見たらわからないと思います。僕ら役者は完成したビデオコンテ(※スタントチームが作るアクションシーンの動画コンテ)を観ることで初めてアクションに触れますけど、そこに行き着く前に何十もの案が捨てられているんです。 阪元 「ベビわる」1作目のときは、スタッフ一同まだ現場のことをそんなに理解していなくて、アクションに関しても「そんなに時間掛かるの?」と驚きはありました。ラストバトルの撮影も「8時間くらい」と言われて、「は、8時間……!?」みたいな。でも回を重ねるごとに準備の重要性を理解していって。3作目の「ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ」の頃には、ユーデンフレームワークス(※園村の所属会社)の稽古場にみんなが入り浸るようになっていました。衣装合わせもそこでしたり。そういえば最近1作目を観返したんですけど、ラストのまひろVS渡部戦で銃を拾おうとしたときの転がり方とか、見たことのないような動きがいくつもあって。「どこからアイデアが生まれるんだろう?」って若手アクション監督のRioくんと話していました。 園村 アクションの一番面白い瞬間って、現実世界でもギリギリあり得る奇跡だと思うんですよ。ハプニング映像集とかにあるような不意を突かれた人のなんとも言えない哀愁とか、どうにもできない悲しさとか。そういうのが観客に伝わると面白いなって。 “奇跡”は待っても起きないので、そのニュアンスを演出でどう作り込むか常に考えています。 三元 園村さんが前に「困難なところに行きたい」と言っていたのが僕の中で印象に残っているんです。どれだけの“足枷”や“手枷”を着けて、キャラが簡単には前へ進めない状況を作るか。目の前の相手を殴ればいいだけなのに殴れない、銃を拾って撃てばいいだけなのに拾えない……キャラの動きにストッパーを掛ける“不都合”をどう設計するか。それがアクションの面白さになるんだと。 阪元 なるほど。スムーズで気持ちいい動きだけが“いいアクション”ってことじゃないんですね。 ■ 危険と隣り合わせだったアクション現場の今 アクションはスリルの裏側で常に危険と隣り合わせの表現でもある。この10年で、日本の現場におけるアクション部の地位や役割はどう変わったのか。そしてジャパンアクションギルドの発足やコンプライアンス意識の高まりは、安全管理にどんな影響を与えたのか。現場のリアルを語ってもらった。 園村 アクション部の存在自体は、以前より認知が高まっていると思います。また、中の役割もどんどん細分化されてきました。アクション監督を筆頭に、アクションコーディネーターがいて、ワイヤーコーディネーターがいて、さらにスタントマンのブッキングを担当する人や、役者のセーフティをメインで見る人など。野球のポジションみたいに1人ひとり役割がはっきりしてきました。制作サイドも「作品を円滑に回すためには、これだけの人員とポジションが必要だ」と理解してくれて、「この作品にはこれだけの人数が必要です」と提示すると予算の許す限り確保してもらえるようになってきました。 三元 整備されて、役割が明確になって。もはやそれを前提にしないと現場が回らないようになってきていますよね。 園村 そうですね。昔のやり方でも、やれと言われればできなくはないんですけど、クオリティの担保は難しい。 アクション部の制作体制が少しずつ整えられてきたこの10年。その流れの中で2021年には、アクションに関わるすべてのプレイヤーとクリエイターを支援し、働く環境を守ることを目的とした団体・ジャパンアクションギルド(JAG)が発足した。長らく“自己責任”の名のもと危険と隣り合わせだったアクションの仕事に、日本でもようやく制度的なサポートが整い始めたと言えるが……。 園村 正直「劇的に何か変わった」という実感はそんなにないです(笑)。ただ、労災が下りたという報告は聞きました。危険なスタントの仕事は、これまで労災が適用されなかったんです。僕が養成所に入った頃は「けがは自己負担」と言われていましたし、現場でけがをしても「病院に行こう」とはなかなかならなかった。むしろ、そんなことをしてしまったら次から呼ばれなくなるんじゃないかという不安のほうが大きかったですね。 三元 わかる。けがしてもバレないように隠すぐらいのことは、みんな普通にやっていました。 阪元 そうなんだ……。 園村 「バレたら自分の価値が下がる」という気持ちでしたよね。でも、そこはすごく変わってきました。制作側の考え方も含めて、ですね。今はちょっとした切り傷でも、すぐ病院に連れて行く体制になっていたり、救護スタッフが常駐している現場もある。コンプライアンスの観点から“けが人が出た作品”は大きなマイナスイメージになってしまう。そのリスクを減らす意味で、現場の安全管理がここ数年でかなり厳しくなっているんだと感じます。 三元 ちなみに僕はJAGの労災に加入しました。今のところ申請したことはないですけどね。スタントマンと比較すると、俳優はこれまでも正直かなり優遇されていたと思います。でも明らかに「これはマズい」というレベルじゃなければ、現場に迷惑を掛けたくないからやっぱり隠しちゃいますね。 阪元 俳優って皆さん「なんでもやります!」って張り切ってくださるじゃないですか。ありがたいんですけど、その熱意が危険につながってしまうこともあるから、監督の立場として、そういう“怖さ”へのアンテナは常に張っているつもりです。アクションじゃなくて、ただコケるだけの芝居でも危ないので……。ただ、「ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ」のときは、もう全員が鬼疲れで、2人(髙石あかり・伊澤彩織)も本当にしんどそうで。「このまま撮影を続けていいのか?」とずっと葛藤していました。このあたりは「ドキュメンタリー オブ ベイビーわるきゅーれ」にも記録されていますが、本来ならドクターストップになっていた場面もあったと思います。でも、本人たちはやる気だから「無理せずやめましょうか」と気遣いを見せるのも失礼かもしれないし……葛藤する日々でした。 園村 そこは役者の気持ちも大きいんですよね。「もうできません」という人には、もちろんやらせない。でも、「ここでいいものを残したい」という人が大半なんです。その気持ちはちゃんと汲んであげたい。一方で、安全面は絶対に守らなきゃいけないので、やる技を変えたり、吹替(スタントダブル)を使ったり、動いているように見せて実はあまり動いていない立ち回りを考えたり。できる範囲で最大限のパフォーマンスを引き出すこともアクション部の仕事です。 阪元 意外と、そこまで考えてくれるアクション監督って多くない気がします。園村さんは「はいOK、次!」と簡単に進めず、1つひとつ考えてくださるのでありがたいです! 園村 役者のモチベーションって、もっとも画面に反映されると思うので……。現場の空気も役者に引っ張られて、そこからスタッフに伝染していく。だから作品にとって一番いいのは、役者が「自分は今すごくいい作品に参加している」と実感できること。そうすれば「こうしたらもっと面白くなるんじゃないですか?」と自発的なアイデアも出てくるんです。逆に「早く終わらないかな」と思っている人が1人でもいると、それもまた伝染していく(笑)。「いつまでアクション撮ってるの?」みたいな重い空気になると、こっちも「早く終わらせなきゃ」と焦って、結果的に作品もよくならない。そういう現場にしない体制作りが大事ですね。 三元 僕自身、俳優として動くこともあれば、ここ数年ではアクション監督として参加することもあって。立場によって安全への意識が変わるのを実感しています。アクション監督として先月クランクアップした作品でも、あるシーンの前日に、アクション部から新しい提案があって。「俳優の動きは変わらないですよね?」と確認したら、「少しだけ変わります」と。無理をさせたくない気持ちもありつつ提案を通したんですが、結果としてすごく派手で華やかなカットになったんです。一歩間違えれば、けがにつながる危険性もある。それでも綿密な計算によってギリギリを攻めていく。その姿勢には本当に頭が下がるし、俳優部出身の自分としては尊敬しかないです。だからこそ、アクション部へのフォローやケアはもちろん、さらなるリスペクト……つまりはギャラアップを期待しています(笑)。 ■ 女性アクションの広がりと「ベビわる」がもたらしたもの 女性アクションも、この10年でよりいっそう存在感を増してきた。中でも筆頭として語られるのが「ベイビーわるきゅーれ」シリーズだ。監督を務めた阪元のもと、三元が俳優、園村がアクション監督として参加した同作は、伊澤彩織という“スタントウーマン出身の主演俳優”を誕生させた。もう1人の主演・髙石あかりも連続テレビ小説「ばけばけ」のヒロインに抜擢され、スター街道をまっしぐら。作品のヒットにとどまらず、キャスト陣のキャリアを大きく押し上げたシリーズとなった。こうした作品が生まれた中で、女性のアクションについてはどんな課題や可能性があるのか。 阪元裕吾 逆に今、なんでも「ベビわる」と言われがちで。女の子が戦う=「ベビわる」みたいな。でも、それって単純に数が少ないからなんですよね。女性が主役で戦う作品がもっと増えればいいのにとずっと思っていますが、なかなか難しいんだろうなとも感じていて。いわゆる“アクションスター”って、どうしても男性に偏ってきた歴史があるじゃないですか。芸能事務所側の意向もあるのか、女性アクションスターって日本では育ちにくい。岡田准一さんとかリーアム・ニーソンみたいに「この人が出てくれば絶対戦うでしょ」という期待感のある女性俳優がもっと増えてほしいんですよ。「ベビわる」は、そこをひたすら担っていたという意識はあります。 三元雅芸 日本の芸能界では、1人の俳優を“アクション専業スター”として育てるのが難しいですよね。所属プロダクションも幅広いジャンルの仕事をさせたいという考えがあるでしょうし。でも「ベビわる」での伊澤さんの存在はアクション界にとって革命でした。スタント出身で主演を張る……彼女の活躍によってスタントウーマンを目指す若い子も増えたと思うんです。 阪元 実際そうみたいですよ! 三元 やっぱり! ただ、ここからさらにつなげていくにはプロダクション側が「アクションを武器にできることのすごさ」をきちんと認識し、どう育てるかが重要になってきます。海外のようなサポート体制を整え、俳優自身のモチベーションを維持できる環境に。そういう土壌作りが女性アクション作品の数を増やすことにもつながっていくんだと思います。 園村健介 アクションを作る側の視点で言えば、女性だから・男性だからと大きく作り分けることはあまりありません。でも昔の女性アクションって、男性キャラとの対比として肌を露出したり、アクションに向かない衣装が多かったんです。そのあたりは、ここ数年で変わってきたと感じます。動きに関しても、自分としては、女性らしさを強調したアクションより、ズタボロになるまで戦う姿のほうが感情移入しやすいと考えていて。セクシーさは不純物に見えてしまうので意図的に排除しています。だから女性か男性かで考えるより、「このキャラがどう追い込まれ、どう戦うのか」というシチュエーション作りに一番気を配っています。そこがしっかり設計されていれば自然と個性が立ち上がると思うので。 ■ 日本アクションの課題と希望 アクションの現在地を語ってきた3人に、最後は「次の10年」に望むことを聞いた。日本のアクションはどこへ向かうのか。何が課題なのか。それぞれの立場から、率直なビジョンが語られた。 園村 海外の現場もいろいろ見てきましたが、アクション部の技術そのものは日本が本当にトップレベルだと思います。海外は特化型の人材が多いのに対して、日本のスタントマンはみんなオールラウンダー。客観的に見てもしっかりしているなと。ただ、そのスキルを最大限に生かせる制作体制がまだ整っていないのが現状です。もしハリウッド並みの予算があったら、どれだけできるんだろうと悔しくなる瞬間もあります。だからこの先10年で必要なのは、“輸出できるアクション産業”の仕組み作りだと思います。……誰か偉い人が本気で動いてくれないといけないんですけどね(笑)。 阪元 本当に、みんな必死に工夫して、なんとかギリギリを攻めてますもんね。 園村 そうなんです。仕事のやり方も、悪い意味でプロとして円熟してきたなと感じることがあって。今は現場の人間が本当に“ちゃんとしている”んですよ。だから新人が入ってきても「いや、そのやり方は違う」と一蹴してしまうんです。でも、違うアプローチを試すことで生まれる発見もある。もっと自主映画みたいなフットワークの軽さで「やってみよう」「ダメだったね」と失敗が許される環境にしていかないと、今以上のイノベーションは生まれないと思います。 三元 技術の面で言えば、日本のスタントマンは本当にレベルが高いですし、剣術や柔術といった日本古来の武術も世界のアクションに大きな影響を与えています。「ジョン・ウィック」とかね。そういった日本ならではの強みに、もう一度立ち返るのもいいんじゃないかと感じています。あとは……とにかく夏はキツい! 空調の効いた巨大スタジオでマーベルみたいにグリーンバック撮影ができるようになったら、日本のアクションはもう一段階レベルアップできるはずです(笑)。 阪元 脚本やトレンドの話だと、とにかく“速くてデカい”が世界的に主流ですよね。「ジョン・ウィック」も「ワイルド・スピード」もシリーズを重ねるごとに派手になって……もちろん、ああいう作品も超面白いんですけど、日本映画がそこに無理に乗っかる必要はないと思っていて。最近も「トワウォ(『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』)みたいなの期待してます」って言われたんですけど、予算も制作環境もまったく違う中で海外の流れに合わせようとするのは、本質を見失う危険がある。この前観た「プレデター:バッドランド」は、めちゃくちゃオーソドックスな三幕構成だったんですよ。主人公が一度敗れ、仲間ができて、最後に強敵を倒す。それだけ。でも、それだけでシリーズ歴代最高のヒットになっている。だから結局は「面白い映画を堅実に作る」。これに尽きると思います。 三元 確かに。評価されたりヒットしている作品って、物語とキャラクターがしっかり際立ってますよね。 阪元 愛しいキャラクターがいて、伝えたいメッセージがあって、そこに観客をワクワクさせるアクションがある。そうやって、この先の10年も面白い映画を堅実に撮り続けることを目指したいです。 ■ 参加者プロフィール □ 三元雅芸(ミモトマサノリ) 1977年5月3日生まれ、大阪府出身。ジャッキー・チェンに憧れ、中学3年生のときに空手で全国2位になる。近年の出演映画は「HYDRA」「燃えよデブゴン TOKYO MISSION」「BAD CITY」「⻤卍」「ゴーストキラー」など。2021年公開の「ベイビーわるきゅーれ」では、超人の戦闘能力を持つ男・渡部を演じた。アクション監督として「オカムロさん」「悪鬼のウイルス」などにも参加。「鬼卍」やショートドラマ「私人逮捕系ユーチューバーの俺vs島」では主演兼アクション監督を務めた。 □ 園村健介(ソノムラケンスケ) 1981年1月4日生まれ、宮城県出身。学生時代に倉田アクションクラブに入団、スタントの基礎を学ぶ。退団後、フリーの時期を経て2003年にユーデンフレームワークスに所属。主なアクション監督作品は「ベイビーわるきゅーれ」シリーズをはじめ、「マンハント」「陰陽師0」など多数。2019年に「HYDRA」で監督デビューを果たし、「BAD CITY」「ゴーストキラー」も手がけた。2026年春に放送・配信のドラマ「ちるらん 新撰組鎮魂歌」、同年に世界配給される谷垣健治監督作「The Furious(原題)」にアクション監督として参加している。 □ 阪元裕吾(サカモトユウゴ) 1996年1月18日生まれ、京都府出身。「べー。」で残酷学生映画祭2016グランプリ、「ハングマンズノット」でカナザワ映画祭2017の期待の新人監督賞に輝いた。2021年公開の「ベイビーわるきゅーれ」が大きな評判を呼び、その後も映画2作とドラマ版が製作される。2025年には「ネムルバカ」や、「最強殺し屋伝説国岡」シリーズの最新作「フレイムユニオン 最強殺し屋伝説国岡 [私闘編]」が公開。2026年1月9日よりテレビ東京でドラマ「俺たちバッドバーバーズ」が放送される。2026年春公開の香港・日本の合作映画「殺手#4(キラー・ナンバー4)」では脚本監修を担当した。

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