イラン女子代表の選手たちが、国内情勢の悪化により深刻な精神的負担を抱えながら女子アジア杯に臨もうとしている。『ガーディアン・オーストラリア』など海外メディアが伝えている。 イラン女子代表は今週、オーストラリアに到着し、同国史上2度目となる女子アジア杯に出場する予定。しかし現状は、誰がどのような状態で現地入りするのかは誰にも分からない状況だという。ここ数か月、イラン国内では反政府デモと当局による激しい弾圧が続いており、代表選手たちは女子ワールドカップにも通ずる人生を懸けた大会への準備を進めることすら困難な状況に置かれている。 ロンドン在住のイラン人スポーツジャーナリスト、ラハ・プールバクシュ氏は「選手たちの間に広がっているのは、不安と強い精神的緊張感だ」と説明。「代表選手としての責任と同時に、自身や家族の安全、報復の可能性と向き合わなければならない状況にある」と選手の現状を伝えた。 大会開幕を目前に控え、イラン女子代表の安全面への懸念も強まっている。政府による通信遮断の影響で、国内にいる選手やスタッフとの連絡はほぼ不可能な状態。選手会が存在しないため、国際サッカー選手会(FIFPro)ですら、チームの正確な所在や状況を把握できていないという。国際サッカー連盟(FIFA)やアジアサッカー連盟(AFC)も、複数回の問い合わせに対して回答していないと報じられている。 イラン女子代表とスタッフ全員にオーストラリア政府からビザは発給されたとみられるが、すでに2選手が代表辞退。そのうちの一人、DFコウサル・カマリはインスタグラムで胸中を明かす。後にその投稿は削除したが、いま現在のサッカーへの思いを吐露した。 「心が傷つき、魂が疲れ果てているとき、サッカーはもはや安らぎの場ではない。すべてが普通だと装うことはできない」 「これは怒りからではなく、自覚したことによるもの。敬意を欠いたわけではなく、良心に基づく決断」 選手たちは声を上げること自体が大きなリスクを伴う。「インスタグラムの投稿や応援コメントといった最小限のSNS活動でさえ、家族への圧力、契約上の制裁、代表招集や試合からの排除、法的措置の警告など深刻な結果を招く可能性がある」とプールバクシュ氏は指摘する。 さらに『ガーディアン・オーストラリア』によると、選手の携帯電話が監視されており、一部の選手にはチームメートの反体制的言動を報告するインセンティブが与えられている。女子アジア杯の事前キャンプ招集を辞退した選手もいたという。 この不透明な状況は、22年大会とは対照的になる。当時イラン女子代表は大会初出場を果たし、選手たちは国民的英雄として称えられた。それは、女性がスポーツや公的空間に参加すること自体が困難だったイラン社会の中で、歴史的な壁を越えた象徴でもあった。 イラン国内では1970年代に女子サッカーが発展し、代表チームも創設された。しかし80年以降、保守的なイスラム政権下で女子スポーツ全体が衰退。長い年月を経て競技復帰こそ認められたが、ヒジャブ着用義務など厳格な服装規定などが課されており、2010年代にはFIFA規定で一時出場禁止措置も受けた。現在も多くのスタジアムで女性入場は禁止されたまま。女性にとって厳しい状況が続く。 今大会を前に、イラン国内では再び大規模な抗議運動が発生している。当局による致命的な弾圧や通信遮断、デモ参加者の殺害・拘束が報告されており、少なくとも数十人のアスリートが逮捕・殺害されたとされる。女子プロサッカー選手1人が犠牲になったとの情報もあり、元男子代表選手たちはFIFAに対し、政府対応の非難と人権保護を求める公開書簡を発表したという。 イラン女子代表は女子アジア杯でグループAに入る。3月2日の初戦で、韓国女子代表と対戦する。